ソラミミ堂

  • 2021年11月24日

    邂逅するソラミミ堂55 コバルト色の流れ星

    イラスト 上田三佳  血はあらそえないとはよく言ったもので、草木虫魚を愛する子に育った。  女の子で中学一年生ともなれば、世間一般ではそろそろ親をうとましく感じるようになる年ごろかとおもうが、川へ行こう魚を見よう、山へ行こう虫を探そうと誘えば嫌ともいわずつきあってくれる。そんな呪文も遠からず効かなくなるのだろ... 続きを読む

  • 2021年7月23日

    邂逅するソラミミ堂53 未来にたてこもる

    イラスト 上田三佳  「No Future No Children! きれいな空気やきれいな水が保障されず、安全と言えない世界では、私は子どもを産みません!」  カナダ在住の十八歳のエマ・リムがこのような宣言をかかげて、環境危機への大人たちの一層真剣な取り組みをせまったところ、たちまち同世代の何千人もの子らの... 続きを読む

  • 2021年5月21日
    No Image

    邂逅するソラミミ堂52 卒業はまだか

    イラスト 上田三佳 教室という きゅうくつなフライパンから いたたまれずにとびだした アツアツのポップコーン いっぽうぼくらは  あわててうつわに戻そうとして  あちちと手を焼く  おっちょこちょいのちちははでした 学校という  ほのぐらい宇宙をひとり  サテライトめざしておよぐ  こころぼそいアストロ... 続きを読む

  • 2021年3月25日
    No Image

    邂逅するソラミミ堂51 生死にかかわる

     「死生について公に議論しよう」ということで、各界の当事者や学者に呼びかけて招集されるその名も「死生懇話会」のとりまとめ役をすることになった。  とりまとめと言っても「死生」とは、かのお大師さまをして「生生生生暗生始 死死死死冥死終」と言わしめるほどのテーマである。一度や二度死にかわり生まれかわりしたくらいでわ... 続きを読む

  • 2021年1月22日

    邂逅するソラミミ堂50 くずれにまとまる

    イラスト 上田三佳  一回目。はじまり、はじまり。  二回目。まだ、大丈夫。  三回目。いよいよ、くるか。  あおぎみて、伊吹のみねが雪をいただくのをかぞえ、その装いにならって身支度し、暮らしのそなえをととのえる。  湖北湖東の、冬の物語の、それがいつものプロローグなのだが、今年は早々の里雪になった。  降れ... 続きを読む

  • 2020年11月18日

    邂逅するソラミミ堂49 おそれの成分

    イラスト 上田三佳  古い家なので枕辺のガラス戸のすきまから外の空気がしのび込んでくる。寝床についたままひとつ深呼吸する。少ししめり気のあるその空気にほんのわずか、金木犀のかおりが調合されている。  異常ナシ。  目覚めの床で花のかおりや湖のにおいをきくということが毎朝の安否確認のようになってしまった。  ... 続きを読む

  • 2020年9月23日

    邂逅するソラミミ堂48 詩のくすり

    イラスト 上田三佳  病気を治すというよりも、からだの調子をととのえるために、日常的にのむ。そういうくすりがある。  それとおなじように、こころの調子をととのえるために日常的に読む。そいういう詩がある。 わたしのまちがいだった わたしの まちがいだった こうして 草にすわれば それがわかる  たと... 続きを読む

  • 2020年7月23日

    邂逅するソラミミ堂47 まあだだよ。

     「人間がウイルスをみつけたんじゃない。ウイルスが人間をみつけたんだ」。  数日まえに、テレビで、作家のヘンミさんがそんなことを言っていた(※)。  ほんとうにそのとおりだ。  ことのはじめにことばづかいをまちがうと、その先、僕らは事実を見あやまる。  人間が恐ろしいウイルスをみつけたのではなく、ウイルスが人間... 続きを読む

  • 2020年5月22日

    邂逅するソラミミ堂46 ときのきれめ

    作品 上田三佳  ときは晩春、雨に百穀生じ、また葭始めて生ずるころ――。  この小文のために机に向かっている今日という日を、昔ながらの二十四節気・七十二候によって分類するとそうなる。  地面のうえに所番地をふり分けることで家・人の在り処が定まるからあなたからの手紙も無事に届く。流れながれ、巡りめぐる時間のうえ... 続きを読む

  • 2020年3月20日

    邂逅するソラミミ堂45 友と春を数える

    イラスト 上田三佳  庭の白梅が咲きだした。きのう一つ、きょう三つ四つ。  咲きそろって、みごろになったら家族でお花見しよう。  趣味らしい趣味をもたない人間なのだとおもっていたけれど、庭しごとなら一日じゅうでもしていられることがわかった。  桜きるばか梅きらぬばか、ということわざにはげまされて、この梅の木に... 続きを読む

  • 2020年1月24日

    邂逅するソラミミ堂44 びわ湖の息の根

    イラスト 上田三佳  氷魚のたよりがとどきはじめた。湖国の冬が深まってきた。  そうなると、気になりだすのが「深呼吸」のこと。だれの? びわ湖の。  年に一回、びわ湖は冬に「深呼吸」する。この時期、びわ湖の表層の水と深層の水がぐるっとまざる。「全層循環」という。それがなぜ「深呼吸」なのか。  表層の水には酸素... 続きを読む

  • 2019年11月22日

    邂逅するソラミミ堂43 大人だまし

    イラスト 上田三佳  子どもは未来である。だから「子どもだまし」というのは「未来だまし」ということである。  未来をだます、なんてことができるのだろうか。  こないだも、地球の明日のことで「未来だまし」をしていたのがバレて、世界じゅうの国ぐにからあつまったおおぜいの大人たちが、地球に対する大人のしわざをみるに... 続きを読む

  • 2019年9月18日

    邂逅するソラミミ堂42 M君とぼく

    イラスト 上田三佳  アとイのあいだの  百の声で  はなしたいな  草と 虫と  ドとレのあいだの  千の音で  うたいたいな  花と 鳥と  そんなふうにいろいろな生きものと話せたら。そこで思い描いてみる…。ありゃ!? これはなかなか大変だ。 M君 欲シイモノヲ「手ニイレル」トカ大事ナモノヲ「手バナ... 続きを読む

  • 2019年7月24日

    邂逅するソラミミ堂41 未完のサルの進化論

    イラスト 上田三佳  一説によると、遺伝子的には人間は、九割八分サルである。   これが本当だとしたら、僕たちは、むしろ未完のサルである。  ゴリラやチンパンジーに少しばかり毛の生えた…いや毛の抜けた程度でありながら、僕らは地上にわがもの顔でのさばって、サル仲間には面目ない。  というわけで、困ったときには「... 続きを読む

  • 2019年5月22日

    邂逅するソラミミ堂40 偶然の海

    イラスト 上田三佳  四月の教室には、思いどおりにここへゴールインしてきた人と、思いがけないスタートラインに立たされた人とが入り混じる。僕はしばしばその両方の人たちに、祝辞代わりに、ひとつの理論をプレゼントする。  ジョン・D・クランボルツ博士が、仕事の上で何らかの成功をおさめた人たち数百人にインタビューした... 続きを読む

  • 2019年3月20日

    邂逅するソラミミ堂39「一人前の子ども」たちへ

    「はんぶん紙ふぶき」  上田三佳  娘も10歳。早いものだと思う。学校では「二分の一成人」だといって親を招いてくれたりする。「這えば立て、立てば歩めの親ごころ」とは言うけれど、そんなにあわてて大人にならなくてもいいよ、とぼくは思う。  「半人前の大人」になったことよりも、むしろ立派に「一人前の子ども... 続きを読む

  • 2019年1月23日

    邂逅するソラミミ堂38「人鍋」の味

    イラスト 上田三佳  発祥の地では「クリスマス・ケトル」と呼ばれている。その「鍋」はこの時期、街頭の風物詩になっている。  歳末の人混みへ繰り出す、ということを最近はしていないのでわからないのだけれど、あの交差点に面した、いつもの百貨店のあたりに、今でも変わらずに出現しているのでしょうか、「社会鍋」※1 は。... 続きを読む