邂逅するソラミミ堂47 まあだだよ。
「人間がウイルスをみつけたんじゃない。ウイルスが人間をみつけたんだ」。
数日まえに、テレビで、作家のヘンミさんがそんなことを言っていた(※)。
ほんとうにそのとおりだ。
ことのはじめにことばづかいをまちがうと、その先、僕らは事実を見あやまる。
人間が恐ろしいウイルスをみつけたのではなく、ウイルスが人間という「便利なのりもの」「快適なすみか」をみつけたのである。
だとすると、今度の事件の第一報は、「未知のウイルスがみつかりました」ではなくて「未知のウイルスにみつかりました」と言うべきだった。
そのような見かたに立てば、この数か月、ぼくらはけっしてウイルスに戦いを挑んできたわけでも、ウイルスと戦争をしてきたわけでもないのであった。
けっきょくぼくらはこの数か月、世界各国・人類あげて、ウイルスと「かくれんぼ」していたのではないだろうか。
地上のおおくの動物は、もうずっとながいあいだ、いつも、いまでも、森のなかに、野原のしげみに、岩かげに、じっと身をひそめながら、「かくれんぼ暮らし」をしている。
用事があってどうしてもひろびろとした原っぱに出なくちゃならないようなときには、動物たちは、用心ぶかくまわりのようすをうかがってから、おそるおそる足をふみだす。
この「かくれんぼ」は、いつだっていのちがけだから。
おおむかし、森に暮らしたぼくらの先祖もそうだったろう。
人間はいつからか、じぶんひとりが「鬼」だと思って、のしのし歩きまわっていたのだけれど、しばらくぶりにかくれる番がやってきた。
むかしの森をとおくはなれて、僕らはこんなまちなかで、いともたやすく、原始時代に引き戻された。身をかくし、息をひそめて、見えない「鬼」の気配に耳をそばだてていた。
その足おとが、ややとおのいたような気がして、わずかに開けたとびらのかげからおずおずと、誰へともなく問いかけている。
「もういいかい」。
※作家 辺見庸出演・NHKこころの時代~宗教・人生~「緊急事態宣言の日々に」2020年6月13日放送