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DADAは701号である

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 2021年12月26日更新

 来年の干支は「壬寅(みずのえとら)」。十二支「寅(虎)」の年である。寺田寅彦について書いておこうと思ったのは「寅」という漢字が名前にあるからという理由からではないが、2022年を迎える前の今号に相応しいのではないかと思う。
 寺田寅彦は、物理学者である。夏目漱石と同時代の人物であり、「天災は忘れた頃にやってくる」という警鐘は寺田寅彦の言葉だといわれている。僕が『寺田寅彦随筆集 第二巻』(岩波文庫)を持っているのは、「伊吹山の句について」という一文があるからだ。松尾芭蕉が詠んだ「おりおりに伊吹を見てや冬ごもり」という句について、伊吹山の地勢や気象状態などに興味を感じ、彦根測候所に頼み必要な気象観測のデータを送ってもらった。それでやっと少しはまとまった事を考えるだけの資料を得たというようなことが書いてある。彦根測候所というのは、彦根地方気象台のことだ。
 そして、この随筆集にある「一つの思考実験」という文章は、「私は今の世の人間が自覚的あるいはむしろ多くは無自覚的に感ずるいろいろの不幸や不安の原因のかなり大きな部分が『新聞』というものの存在と直接関係をもっているように思う」と書きはじめられている。「ただ一つだけでも充分な深い思索に値するだけの内容をもった事がらが、数限りもなくただ万華鏡裏の影像のように瞬間的の印象しかとどめない。(中略)こういう習慣は物事に執着して徹底的にそれを追究するという能力をなしくずしに消磨させる」という理由から、日刊新聞全廃という思考実験に及んだようだ。
 コロナ禍2年目の年末、正月を無事に迎えることができるだろうか……、僕には漠然とした不安がある。最近の異常気象や頻発する地震のせいだけではない。原因は秒単位で更新されるネットニュースやSNSにありそうだ。「万華鏡裏の影像のように瞬間的の印象」、その夥しい数の残像が今までにないスピードで折り重なり、漠然とした不安の原因になっているのだろう。自分の頭でしっかり物事を考えよう。来年は、おそらく寺田寅彦が注目されるかもしれない。
 時間は未来へと刻むものだから何が起ころうが2022年の正月はやってくる。ただ、新しい年を晴れ晴れと迎えることができればと願っている。来年もどうぞよろしくお願いいたします(702号もね)。

編集部

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