ソラミミ堂

邂逅するソラミミ堂40 偶然の海

このエントリーをはてなブックマークに追加 2019年5月22日更新

イラスト 上田三佳

 四月の教室には、思いどおりにここへゴールインしてきた人と、思いがけないスタートラインに立たされた人とが入り混じる。僕はしばしばその両方の人たちに、祝辞代わりに、ひとつの理論をプレゼントする。
 ジョン・D・クランボルツ博士が、仕事の上で何らかの成功をおさめた人たち数百人にインタビューしたところ、そのうち八割の人が「自分の成功は予期しない偶然によるものだ」と考えているということがわかった。
 実際、何事かをやりとげた人の多くがつぎのように言うのを僕らはたびたび耳にする。「自分は運が良かったのだ」と。
 けれど、こんなふうに言われると「じゃあ、将来のことを考えて、計画立ててもムダじゃないか」と、「それならぜんぶ運にまかせてしまえばいい」と、考えてしまうかもしれない。
 けれどもそれは早とちり。博士の説の肝心なのはここからだ。
 たしかに、仕事や人生の成り行きは、偶然次第かもしれぬ。ただ、世の中には、数々の予期せぬ偶然をチャンスに変えて——あるいは〝良い偶然〟を引き寄せて——成功している人がいる。調べてみると、それらの人にはある共通の特性がある。その特性とは「好奇心」「持続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」の五つである。
 言われてみれば「ああ、あの人も、この人も」と思いあたる。
 「偶然は決して避けて通れない。もちろん自分でつくることもできない。ただいくつかの心がけと行動次第で、偶然を自分の仲間にすることならできる」。
 これが「計画された偶発性(Planned Happenstance)」の名で知られる理論の骨子である。
 「偶然を愛する者は、また偶然に愛される」というわけだ。
 教室は偶然の庭。世界はまさに偶然の海。僕らはさまざま興味を持とう。へこたれないで続けてみよう。なんとかなるさと前向きに。これしかないと決めつけないで色んな仕方をためしてみよう。いざとなったらエイ、ヤッ。ザブン! と飛び込もう。
 ただし僕からもうひとつ申し添えよう。「用意周到に失敗する」という経験も、いまそしてここならではの、また格別のあじわい深いものである。

 

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