邂逅するソラミミ堂45 友と春を数える
庭の白梅が咲きだした。きのう一つ、きょう三つ四つ。
咲きそろって、みごろになったら家族でお花見しよう。
趣味らしい趣味をもたない人間なのだとおもっていたけれど、庭しごとなら一日じゅうでもしていられることがわかった。
桜きるばか梅きらぬばか、ということわざにはげまされて、この梅の木については植木屋さんにはまかせずに、見よう見まねの剪定の練習相手になってもらっている。
この枝をきろうか? どうかな、こっちはのばしてみる?
梅にきき、梅とはなしながら、日がくれるまでパチン、パチンとやる。庭木の剪定というよりは、床屋見習いになった気分だ。
そんなふうにして二、三年してみると、こんなじぶんにでも梅のことが少しはわかってきた気になる。ことしは気もちよさそうにしているな、と思っていたら、いままででいちばんたくさんつぼみをつけてくれた。
そのつぼみがひらきだした。
庭の梅の木は、寡黙な友だちだ。その友だちが、にっこりわらってくれているみたいだ。
人間は梅の花が咲いたら春が近いと感じたり、春が来たから花が咲いたとおもったりするけれど、動物や植物、虫たちはどうやって春を知るのだろう?
植物には植物の、虫には虫の、それぞれの生きものにはそれぞれのやり方があるらしい。
そのひとつが積算温度。
積算温度というのは、ある期間の日ごとの平均気温のうち、基準温度以上の有効な分を足しあわせたもの。たとえば、よく知られたところでは桜は二月一日からの積算温度が400度を超えると開花すると言われている。梅は落葉からの積算温度が600度くらいになると咲くらしい。もちろん、開花のための条件はそれだけではない。いろいろな条件がくみあわさって花は咲く。
生きものにはそれぞれに、それぞれの「春の数えかた」があるのだ、と日髙先生は言った。
春を数える草木を見ながら僕らは僕らの春を数える。
庭の梅の木、寡黙な友がこうしてにっこりわらってくれて、僕の心の積算温度もゆっくり目盛りを上げていく。
参考
- 日髙敏隆『春の数えかた』2005年、新潮社
※桜・梅ともに積算温度と開花時期との関係には諸説あり