傘は嫁入り道具だった……

かさぜん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2010年5月26日更新

中川善輝さんと奥様の澄美さん

 長浜に「かさぜん」という傘の専門店がある。二代目の中川善輝さんと奥様の澄美さんが営んでいる。子どもの頃から家業を手伝ってきた善輝さんは、「傘から生まれてきた」というくらい傘と関わり、この道一筋。蛇の目傘や番傘といった和傘を扱うことができる数少ない職人の一人である。
 また、「かさぜん」では洋傘の曲がった骨や、折れた傘の修理など大抵のものは直してもらえる。ただ、「最近の傘は輸入ものが多く、部品が合わない場合があります。直す技術はあっても、無理なこともあります」。直るかどうかは一度見てみないと判らないのだという。職人が営む専門店はこういうところが心強い。
 現代は、傘の骨の数が、12本、16本が主流。「骨の数が多いから丈夫とは限りません。問題は材質です。あとは芯の棒の太さの関係もありますね。もともとは8本が標準で、昭和30年代くらいから10本になり、今は10本のものも珍しくなりましたね」と善輝さんが説明してくださった。
 「10本のはね、傘を広げたとき、いちばん傘らしい、いい形をしていると思うんですよ」と言うのは澄美さんだ。そして、「手に持つものだから、たたんだときすっと細く巻ける傘がいいですね……」。良い傘のひとつの条件を伺ったところ、おふたりは声をそろえてそう教えてくださった。長く傘を扱ってきた方ならではの美意識だろう。

傘の修理をしていただいた

 実は、曲がってしまった骨の修理をお願いしていたのだが、見事に直ってきた。コンビニで手軽に透明ビニール傘が手に入ることもあり、今は傘を修理できることを知らない人も多い。透明な傘は横殴りの雨の時など前方を見ることができ、重宝することも知っているが、そもそも、専門店の傘とビニール傘を比較することが間違っているように思えた。
 「和傘はね、ついこの間までは嫁入り道具だったんです……」。原稿を書きながら、澄美さんの言葉を思い出している。番傘は普段使いの傘、蛇の目は余所行きの傘……、使い分ける時代もあった。 編集部に蛇の目傘が一本ある。数年前に「かさぜん」で買い求めたものだと聞かされた。編集長に理由を尋ねると「単純に欲しかったから」だという。
 大切な思い出が残る傘がある。この傘をさせば……。私にとってそういう傘だったから「かさぜん」さんが近くにあるのは、とても心強いのである。編集部の蛇の目にも、あれから大切な記憶が降ったに違いない。

かさぜん

滋賀県長浜市元浜町14-20
TEL: 0749-62-1187
営業 9:00〜17:00 / 不定休

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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