「お台処 ともゑ庵」の2階でお茶をしようと誘われ、カフェを訪れたのは、今年6月最後の日曜日だった。
昭和9年に建てられたという民家を改装したワンフロアーの店内は、三方のレトロなガラス窓のせいか、樹々越しにみえる伊吹山や町なみが穏やかで、明るく解放感にあふれていた。
カフェの主は彦根市に住む山崎春美さん・眞理子さんご夫妻。家は眞理子さんの祖父が建て、ここ10年ほどは空き家になっていたそうだ。
1階テナント「お台処 ともゑ庵」は2021年4月にオープンしたお食事処である。ともゑ庵のお客様に食後のコーヒーを提供したいとご夫妻がはじめたのがカフェだ。食後のお客様には100円引きで提供している(カフェのみの利用も可)。香り高い珈琲を飲みながら、「来月あたりからここでパンの販売をはじめます」とお聞きした。
10月……、開店に合わせて訪れると、すぐにお客さんがやって来た。「地元です」というお客さんは、もともとはご飯党だけれど、週に1回、ここのパンを食べるのを楽しみに通っているそうだ。
「パンの焼き時間を少しかえてみたのですが」と春美さんが話しはじめると、「私はもっちりした方が好き」とか「具材の量はちょうどいいんじゃないかな」などと、お客さんとご夫妻はパンの話で盛り上がった。
本当に「ともゑ庵の2階」でパンの販売がはじまったのだ。名前は「コロボックルのパン屋さん」という。
春美さんがパンを焼きはじめたのは2020年2月以降、コロナ禍で在宅時間が増えたためだ。針金細工や木工も楽しんだが、眞理子さんがはじめたパン作りにハマった。
2回目の段階で「口を出さず、好きにやらせて」と春美さんが言ったそうだ。発酵が思うようにならないことなどに面白さを感じ、発酵器を手作りするほどに没頭していった。
食パンを焼いては、親戚や友人などに配ると、「おいしい!」と皆に喜ばれ、今年7月、販売用のパンの製造をはじめた。
毎週土曜日の午後は仕込み作業と試作品づくり、日曜日は早朝4時頃に作業をはじめる。作るのはブリオッシュ系丸パンとミニ食パンの2種類で、それぞれプレーンとレーズンやチーズなどを入れたものが数種類ずつある。
ご夫妻は「国内産小麦粉を使用し、材料と自然な風味を大切にしている」と言う。
春美さんは「いつかは天然酵母を作るところからはじめたいです。パン作りに到達点はないですね」とゴールがみえないことと、眞理子さんと二人であれこれ考えながらの作業を楽しんでおられる。
カフェは、ご夫妻にとって二人で過ごすとっておきの場所なのである。仲の良さがパンの風味を増しているに違いない。
コロナ禍に生まれた可愛らしいパンは、ともゑ庵2階のカフェに並んでいる。
彦根の芹川沿い、袋町にある清瀧旅館7代目の中溝雅士さん(56)とはすいぶん長いつきあいである。編集部事務所の引き戸が突然開いて「入りま〜す」、或いは「あがりま〜す」と声がして、2階へ続く階段をのぼってくる。声の調子や足音で中溝さんの調子がわかる。大抵はちょっとした手土産を持参。電話ですみそうな用件のあと、その3〜4倍はありそうな雑談をして、突然どどどどっと、つむじ風のように去っていく。風貌よりずいぶんと繊細で、調子の悪いときが2か月3か月と続くときもあり、中溝さんが笑っていると、こちらも嬉しくなってくる。そういう人である。
清瀧旅館は明治8年(1875)創業、昨年から続くコロナ禍真っ只中の7月15日、旅館の一部を改装して食事処がオープンした。昔ながらの旅館の玄関が突如、明るいお洒落な空間に生まれかわった。
中溝さんは20歳のときから大阪で10年、日本料理を修業して、家業を継いだ。旅館に泊まるか、地域のイベントなど特別なときにしか食べることができなかった料理は、美味しいと評判だった。お店ができて好きなときに食べることができるようになり、喜んでいる仲間たちも多い。
「仕入れの具合でメニューを決めます。インスタで確認してくださ〜い」とゆる〜い雰囲気の中溝さんである。
「黒毛和牛ステーキ定食」(1980円)、「北京の料理人に教えてもらったチャーハンの定食」(1100円)。定食にはご飯・味噌汁のほか、小鉢4品が付く。僕は肉が苦手なので、チャーハンが気に入っている。「チャーハンは玉子料理ですよ」と、修業時代に北京の料理人に本当に教えてもらったという長い名前の定食だ。
最近、中溝さんは忙しいので事務所にやって来ない。代わりに僕がランチを食べに行く。つむじ風は厨房のなかで絶好調で、僕らは安心し、やっぱり嬉しくなるのである。
ごちそうさまと帰ろうとすると、「来週も待ってますよ」と言う。つむじ風は孤軍奮闘、きっと寂しいのだ。
エントランスと川村千恵さん
〝夏だ! 伊吹山だ!〟と毎年思うのは、ただ高いところが好きで、高い所=(イコール)涼しいという単純な発想からだが、ここ数年は山頂の涼しい空気とお花畑を思い浮かべるだけで、なかなか思いを遂げることはできないでいる。何とかしたいと真剣に考えていたら、伊吹山への登山口の一つである、上平寺登山口近くにゲストハウスがオープンすると耳にした。ここを足掛かりにできれば……と早速訪れてみた。
「上平寺御城下ゲストハウス うむ」のオーナー・川村千恵さんは、今年3月までの約10年間、長浜市にあった「いざない湖北定住センター」で、空き家バンクの運営や、移住定住・空き家の利活用の相談などを行っていたそうだ。山城好きが高じて大河ドラマ「江」の放映に合わせた、小谷城跡でのガイド養成講座を受講し観光ボランティアも務めている。極めつけは長浜の地域情報誌「長浜み〜な」の原稿執筆にもかかわってこられたという、何だかすごい人だった。
そんな川村さんは「これからの自分の人生、どうする?と考えたとき、自分事として古民家を地域のために利活用したい!」と思い立ったそうだ。数年間空き家を探し、巡り合ったのが米原市上平寺に立つ昭和61年建築の民家。上平寺には、北近江を支配した京極氏館跡や上平寺城跡(共に国指定史跡)がある。川村さんはゲストハウス運営のキーワードを〝山城〟と〝戦国〟に定めた。
2019年に家の売買契約が成立、その後、家財の整理やリノベーション工事、外構工事など忙しい日々を過ごしてこられたが、家財を処分するのに「お譲り会」と称して欲しい人に譲るイベントを開いたり、今年3月からは上平寺城跡や弥高百坊の探訪ツアー、京極氏関連のトークショーを行ったりと、オープンに先駆けてイベントも多彩に開催。空き家の利活用にかかわってこられた経験、「長浜み〜な」で培った豊富な人脈など、現在に至るまでの川村さんの生きざまがギュッと凝縮されているようだ。
名称の「うむ」は仏教用語の「有無」にちなみ、今、見えていること、実在していることの「有」と、過ぎ去った歴史・人など今は見ることのできない「無」、上平寺には語り継いでいきたい「有無」がたくさんあり、それらを未来につなぐお手伝いがしたいと名付けた。時には「う〜む」と考え込むことも大事にしたいとも。
ホームページでは自身を足軽と称している。浅井家から京極家に遣わされている足軽というストーリで、京極氏に代わって台頭する浅井氏、小谷城跡とのつながりも意識されているのか、今後の展開が楽しみだ。
古民家と呼ぶには少し新しい気もするが、南側と北側に縁側がある贅沢な造り。リノベーションしたお風呂は、信楽焼きのバスタブに檜の壁、きっと良い香りに包まれることだろう。床の間には山城ガイド仲間から贈られた鎧兜などが飾られ、本棚には戦国関連の書籍もずらりと並ぶ。庭ではバーベキューも楽しめる。そして何より、京極氏館跡がすぐそこにある。
川村さんは「宿泊は一日一組だけ、最大15名くらいの宿泊が可能」と言い、トークショーなどのイベントも検討中。地域に溶け込み、地域の魅力を発信する施設を目指す。
伊吹山の魅力は、信仰、歴史、山城、植物など多角的に掘り下げることができる。夏でも秋でもいつでも、まず行ってみることだ。
JR北陸線・高月駅の近くに「タカチュキ」という名の食堂があることを知り興味を持った。「タカツキ」と「タカチュキ」、「ツ」と「チュ」を発音するときの唇の動きや心のドキドキに一瞬、動揺した。
「食に願いを」をキャッチコピーに????原克行さん(39)が地場産にこだわったカラダに優しい食事をつくっている。長浜市内の農林産物直売所から新鮮なおいしい野菜を、福井県おおい町の漁港からは季節の魚を仕入れ、素材の味が引き立つ味付けを心がけている。残念なことに、コロナ禍で食堂は休業中。お弁当のデリバリーに傾注している。
日替わり弁当(550円・おかずのみ450円)は、1か月単位でメニューが発表される。おかずのダブりがなく、地域の高齢者に人気だ。その他、幕の内弁当(1080円)、和牛焼肉弁当(650円)、自家製塩麹を使ったからあげ弁当(600円)。朝9時までに予約すればテイクアウトもOK、高月市内は配達も可能だ。
しかし、お弁当も企業やイベントでの利用がなくコロナ禍は厳しい。????原さんは8年前のオープン時に計画していた「お菓子プリント」の受注に期待を寄せている。
直径130ミリのサークルクッキーに、写真やイラスト、ロゴマークなどをそのままプリントできる。1枚480円(送料別途)。
????原さんは「データを送っていただければ、プリントしてお送りします。結婚式やお誕生日の記念品にぜひご利用ください」と話す。ロゴマークを入れれば宣伝にも使えるだろう。1枚から注文可能。早速、アマビエをデザインした疫病退散のデータを送った。オリジナルプリントのクッキーは子どもたちに気に入ってもらえそうだ。
大きなガラス張りの明るい店内が気持ちいい。今年3月にオープンしたカフェである。ハンドドリップが主流の時代だが、ベルモはガスサイフォンでコーヒーを一杯一杯丁寧に淹れてくれる。店長の翔子さんのこだわりだ。学生時代にコーヒーに興味を持ち、サイフォンで淹れる店で修業したのだという。
僕が大学で入っていたサークルは珈琲研究会。下宿で暮らしはじめて最初に買ったのはアルコールランプサイフォンだった。フィルターの管理が面倒だったが、器具のカッコよさが気に入っていた。ベルモのコーヒーは香り高く大ぶりのカップでたっぷり楽しめるのも魅力だ(オリジナルブレンド、ビターブレンドの2種、何れも480円)。
翔子さんは、モーニングを充実させたいと話す。ベルモーニングプレート(680円)は無添加食パン・地元野菜を使用したサラダ・キャロットラペ・ゆで卵・ベーコンの一皿とドリンク。自家製のスコーン(ブルーベリー&クリームチーズ)とドリンクのセット(600円)など。
スコーンはクリームチーズを練り込んであり、しっとりとしている。テイクアウトも可能だ。翔子さんの話では、焼きたても美味しいが、時間が経つほど味が馴染み美味しさが変わるそうだ。食べたい気持ちを我慢できるかどうか自信はないが、試してみなければと思っている。
ところで、最近はコロナ禍でランチタイムを過ぎると閉まってしまう店が多い。僕の生活は不規則、お腹の減る時間も定まらない。なんだかなーと思っていたが、僕にとってベルモは救世主のようなカフェだった。ランチタイムを過ぎても小腹を満たすことができる。野菜たっぷり、ご飯が古代米のベルモカレー(880円)が美味しい。取材を理由に2日連続ベルモカレーを食べたほどだ。
その他ピザトースト(700円)、好みのシロップを選べるワッフル(680円)、ワッフルチキン(1,100円)などの軽食も楽しむことができる。
ベルモのベルは幸せのベル。忙しい朝もベルモを訪れる余裕を持ちたいものだ。
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「ミモザ キッチン」は、昨年11月、東近江市小池町にオープン。自然栽培で野菜を育てたいオーナーの丹羽昭夫さんと、お店をやりたかった奥様恩(めぐみ)さんの思いが叶って出来上がった。恩さんは辻学園調理技術専門学校を卒業後、サービスの楽しさに魅了され東京フレンチレストラン『ラ・ロシェル』にて最高のサービスを経験し、接客・サービス・マネージメントを学び、地元で自分のお店を持つことを決意したそうだ。ミモザ キッチンのマネージャーでもある。「食材はもちろん、こだわれるところはとことんこだわりたい。クオリティーにも自信があります」と話す。
モノトーンを基調にした店内は、モダン。大きな窓から望む景色は自然栽培の野菜畑、37アールのミモザ ファームが目の前に広がっている。楽しさとくつろぎ……、食事への期待が高まる。
野菜を自然に育てる農法について尋ねると「肥料や農薬は使わず、草は刈るが抜かない、耕さない」と話してくださった。
畑は2019年まで水田だったそうだ。土地には稲作を行っていた頃の肥料や農薬が残っていて、最初はイネ科の雑草しか育たなかったが、昨年はマメ科の雑草も見られるようになった。多様な雑草が生えることで土地が豊かになっていくことが実感できるのだそうだ。年間、おおよそ50種類の野菜を栽培。ファームで育てる四季折々の土の香りや風味を感じる野菜たちは、ランチタイムのサラダビュッフェでたっぷりと、ディナーではアラカルトメニューからチョイスして楽しむことができる。しかし、丹精込めてつくる野菜の成長には時間がかかり、キッチンで提供するには十分な収穫量にならない場合もある。そんなときは近隣の契約農家さんが大切に育てた無農薬野菜をつかう。魚や肉のメイン料理にも、季節野菜がたっぷり。この上ない野菜本来の味を活かした贅沢なひと皿となる。
店名につけたミモザは恩さんが好きな花である。3月8日の「国際女性デー」がイタリアでは「ミモザの日」と呼ばれ、身近な女性に感謝を伝えるときにミモザを贈ることにもちなんでいる。花言葉は感謝・思いやり・友情など。
「お客様に喜んでいただけることに加え、スタッフも楽しく働ける場所にしたい」と恩さんがしっかりと主張される感覚が新しく、清々しい思いがした。
普段はほとんど考えないことが、ミモザの哲学として昇華され、料理というカタチで表現されている。私はいろんな素敵なことを教わったように思う。
彦根市の「七曲り」と呼ばれる通りは、彦根城下町と中山道高宮宿を結ぶ道で、何度も折れ曲がっているのでその名がある。仏壇の職人が集住していることで知られ、数多くの古民家が残っている。
昨秋、江戸時代後期の町家をリノベーションし、市川祐生さん(33)がハンバーガーとタコスの専門店をオープンした。もともとイタリアンの料理人である。店名の「I am Jackie.」は、「昔からジャッキーと呼ばれていたから」だという。バックパッカーで世界を旅した時代があり、およそ20ヵ国は訪れた。奥様もバックパッカーでカナダで出会ったそうだ。
店内にはその当時買い集めた雑貨やら昭和レトロなモノたちがディスプレーされ古民家の雰囲気に不思議なニュアンスを醸し出している。
「THIS IS HAMBURGER」(1,100円)は、バンズ・牛ミンチ(100%)・トマト・レタス・オニオンを自家製ソースとホイップバターで味わう(タコスチップ付き)。ランチはプラス200円でドリンクが付く。「ハンバーガーは具材を工夫することでグルメな食べ物になる」と市川さん。タコスはランチタイム後のサイドメニューだ。一人で切り盛りしているので、セルフサービスが基本、ドリンクの注文なども簡単なルールがあるが、慣れてしまえば逆に心地良い。「いつもの自分の場所」という感じになってくる。
テイクアウトOKである。
しかし!
電話が無い!
連絡の手段はInstagramのダイレクトメッセージだけだ。
古民家、ハンバーガー、イタリアン、昭和レトロ、テイクアウト、インスタグラム、ダイレクトメール、現代のキーワードで満たされている。
ダイレクトメールなんて面倒くさい。僕は考えた。「店を訪れて注文し、持ち帰ればよい!」電話は無くてもテイクアウトはできる……。これが本来のテイクアウトなのだ。少し安心した次第である。
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「エル マナ」は小さなコーヒー専門店である。小さいのにコロナ禍で席数が更に少なくなった。コーヒーも料理することも好きだというヤマモト・メサ・ホセさん(50)が2016年にオープン。ホセさんはボリビアの出身である。ピコ・デ・トゥカノ農園やコパカバーナ農園の豆で淹れるコーヒー(429円)は、甘み・酸味・苦み・コクのバランスが良くおすすめだという。故郷のコーヒー豆だから思い入れも強いのかもしれない。
コーヒーは嗜好品だから、好みは人それぞれ。その日の天気や体調、場所や一緒に居る人によって味も香りも違ってくる。基本は自分のお気に入りのコーヒー豆を注文すればいい。ということは「気分」という不確かなものによって美味しさが左右される飲み物である。
ホセさんはコーヒー好きだから、何処の国の農園の豆でも等しく丁寧に愛情を込めて淹れてくれるに違いない。しかし、僕はホセさんは無意識のうちにほんの少し故郷の豆を贔屓しているのではないかと疑っている。だから、エル マナでストレートコーヒーを飲むならば僕にはボリビアが一番だと思う。
更に、エル マナは、最初は非常に入りにくい。建物は通りに面しているが、入り口が判らないのである。そういう店は僕の経験上、美味しい店である(僕は大学時代「珈琲研究会」の議長をつとめていた)。
ホセさんが「来年は、美味しいコーヒーの淹れ方などのワークショップを定期的に開催したい」と話していた。僕は「気分と思い入れの極意」を伝えたかったが、スペイン語ができないので、諦めたのだった。スマホに便利な翻訳アプリがあったことを忘れていた。再び訪れる美味しい口実ができたというものだ。
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1787年に建てられた旧彦根藩足軽組屋敷「善利組・林家住宅」(市指定文化財)をできる限り江戸時代の佇まいに戻しながら改装し「ギャラリー&茶房みごと庵」が9月1日にオープンした。オーナーは中川一志郎さん(62)、湖東焼の再興に取り組む陶芸家である。
「湖東焼」は江戸時代後期に彦根藩の藩窯として隆盛したやきものである。黄金時代には、磁器を中心に、細やかで美しく当時のやきものを代表する高い完成度を誇っていた。藩窯として存続期間が短く「幻の名陶」と冠がつく。明治時代となり、湖東焼は藩の後ろだてを失い、民窯として明治28年まで細々と存続するが、かつての湖東焼の面影はなく途絶えることになる。
中川さんは廃絶を惜しみ、復興を志し、1986年彦根市内に築窯、1997年「一志郎窯」を開窯し独立した。ギャラリーには江戸時代の湖東焼コレクション40点を展示するほか、自らの作品の展示販売も行っている。
彦根の足軽組屋敷は、城下町のもっとも外側に、城下を取り囲むように屋敷を連ね、彦根城と城下町を守備する役割を担っていた。足軽組屋敷は、彦根藩の作事方が建てた一戸建ての官舎である。善利組の規模は大きく、外堀と善利川(芹川)の間、東西約750メートル、南北約300メートルに及び、間口5間(約9メートル)、奥行10間(約18メートル)ほどの敷地に、木戸門と塀に囲まれた小さいが武家屋敷の体裁を整えた建物が連綿と続いていたのだ。
「ギャラリー&茶房みごと庵」として生まれかわった「善利組・林家住宅」は、彦根に現存する最も古い足軽組屋敷である。旧善利組足軽組屋敷の家屋は基本的な間取りは同じでも、木戸門や塀のすぐ内側に主屋が接するタイプと前庭を設けるタイプ、平入りと妻入りなど4タイプあるらしい。
「みごと庵」は茶房である。名前の由来は、「美しい仕事」の「美事」、「味な仕事」の「味事」などの思いが込められている。
陶器にこだわりガラスの器は一切使用しないなど、中川さんのこだわりが随所にある。そのこだわりのひとつひとつを感じとることができれば、「天晴れ」の「お見事!」なのかもしれない。
おすすめは神戸のスイーツ人気店マモン・エ・フィーユのオリジナルケーキでマロングラッセ・小豆のパウンドは各300円。厳選した豆で淹れたコーヒー、紅茶やチャイ(各450円)。器はカウンターに用意されたなかから好みのものを選ぶことができる。
隣接する工房「再興湖東焼 一志郎窯」では陶芸教室(要予約)も行っている。近々、ランチも始める予定だそうだ。陶芸教室に参加し、ランチを楽しみ、足軽組屋敷を散策というのもいいかもしれない。
また、「みごと庵」は車が走る道路から随分と奥まったところにあるので、聞こえてくる音はわずかである。しばし、沈思熟考する時間を持つことができるに違いない。実は、これが一番の贅沢だったりするのである。
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「cococafe 心風流(シンプル)」は、高時川の上流「妙理の里」にある。今年6月、オープン一周年を迎えた。緑豊かな山々に囲まれ、川のせせらぎが聞こえる静けさが心地いい。店名の「心風流」は爽やかな風が心の中に流れるようにとの思いが込められている。
僕は別件の取材で心風流を訪れた。20代の若者に出迎えられ驚いた。酒井太さん(21)、吉田武尊さん(22)、岩瀬洋平さん(25)、山田詩織さん(28)、皆、自然が好きでこの場所を拠点に暮らしていきたいと願っている。店内の改装や芝地のハンモック型のブランコなども、地元の方々と協力して作ったという。
カフェのお薦めは、地元の猟師によって狩猟された新鮮な鹿肉を使用したジビエ料理。
「地味あふれる鹿の焼肉ランチ(1500円)」は、前菜、余呉町産の米で炊いたご飯、味噌汁つき。地元野菜と鹿の焼肉は焼きたてでふっくらと柔らかい。僕は肉の脂身が苦手だが、鹿肉なら美味しく食べられることを発見してしまった。デザートプレートは400円。プラス100円でドリンクがつく。
「胡桃(くるみ)谷の名水」で丁寧に淹れたコーヒー(300円)はおそらく心風流でしか味わえないやわらかな味である。
三密を避け、のんびり癒されるなら心風流がいい。余呉湖から車で約20分、別世界である。
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湖東三山西明寺門前の「一休庵」は、できたての豆腐料理を堪能できる和食処である。「精進料理御膳」(2,160円)などが人気だ。
豆腐は併設された「豆腐工房」で毎日熟練した職人が手間暇かけて作っている。大豆は100%国産にこだわり、タンパク質を多く含む九州産の「フクユタカ」と糖度の高い滋賀県産の「タマホマレ」を独自の配合でブレンドし、苦汁はなめらかさと旨味を引き出すために、「海苦汁(海にがり)」を使用。「一休庵」でしか味わえない格別なものとなっている。
「TOFU CAFE 19」は、一休庵本店内に4月17日オープン。できたての豆乳ドリンクとスイーツのテイクアウト専門のカフェである。
豆乳にエスプレッソマシーンでスチームをかけ泡を入れてつくる「SOY MILK」(ホット・アイス各350円)は、大豆の甘みと濃厚な風味を楽しむことができる。これが豆乳かと驚くに違いない。
「先代が20年ほど前に国産大豆100%、天然の苦汁にこだわり豆腐づくりを始めました。豆腐文化を後世に伝えるには、何ができるのかいろいろ考えていました」と代表の上川悟史さんは話す。豆腐カフェの構想は1年以上前からあった。スタッフと話し合いスタイリッシュでスタバのような豆乳カフェにしようと決まったのが昨年8月。「TOFU CAFE 19」の実現に向けて挑戦が始まった。
コーヒーにもこだわりがあり、リーブス・コーヒー・ロースターズが、「TOFU CAFE 19」のために焙煎した豆を使用。リーブスで研鑽したバリスタが淹れてくれる(ホットコーヒー400円、ホットラテ450円)。
そして何よりお薦めは、豆腐の可能性を感じるスイーツである。「豆腐ブラン・マンジェ こしあん」(400円)、「豆腐ブラン・マンジェ ゆず」(450円)である。今後、商品開発を進め、ラインナップを充実させていくという。
新型コロナ渦中だが、豆乳は健康にも良い。国道307を通ったら立ち寄ってみるといい。
「百百百百」は、中山道鳥居本宿にできた蕎麦専門店の屋号である。「どどもも」と読む。街道沿いの江戸時代後期の建物(築約200年・登録有形文化財)を改修し、今年6月にオープンした。店主の小林満さん(44)が、収穫した殻つきのままの蕎麦の実(玄蕎麦)を自家製粉し、毎朝心を込めて蕎麦を打っている。
百々氏は、浅井氏に属していたころには佐和山城の城代を務めていた。本能寺の変後の山崎の合戦で、羽柴秀吉の家臣として従軍している。話したいことはいくつもあるが、今回は蕎麦である。
百百百百を初めて訪ねたのは8月。十割蕎麦とは、100%蕎麦粉と水以外、混ざり物が一切なく打つ蕎麦のこと。僕は十割蕎麦(挽きぐるみ:殻付きのまま挽いて打った蕎麦)、十割蕎麦(丸抜き:玄蕎麦の殻を剥いた抜き実を挽いて打った蕎麦)を食べた。
小林さんは、「故郷の山で採取した松茸を、蕎麦とともに楽しんで欲しい」と話していた。長野県飯田市出身らしい。松茸は帰郷し山に入り、自分で採るという。
10月、期待を込めて出かけたが、今年、故郷の松茸は店で出すほど収穫できなかったそうだ。天ぷら盛り合わせを頼んだ。柿の天ぷらが印象に残った。このとき、12月には「とうじ蕎麦」を食べに来ようと思った。寒い時期の温かい蕎麦も旨い。師走に入って予約の電話を入れた。
「とうじ蕎麦」は長野の名物である。竹ひごを編んだ「とうじ篭」に蕎麦を少量入れ、野菜やきのこをたっぷり入れたつゆ(鍋)に浸し、さっと湯がいて食べる。信州の文化である。蕎麦をつゆに浸すことを「湯(とう)じ」といい、ひたし・あたためるわけだ。「とうじ篭」は、「とうじ蕎麦」専用の道具であることは言うまでもない。生蕎麦を温める最適な大きさと長さ、篭の目が工夫されてきたに違いない。
ところで鳥居本宿は、江戸時代にできた宿場町である。中山道は、古代の律令制下に整備された東山道のルートをほぼ踏襲している。井伊氏が居城を中山道沿いの佐和山城から彦根山に移すことが決まった慶長8年(1603)、新しく鳥居本宿が造られることになり、江戸から63番目の宿駅となった。ちなみに、百々村は鳥居本の南端に位置し、百々氏の一族が集落を形成していたことで知られている。
中山道は木曽街道ともいう。湖東・湖北では伊吹蕎麦や多賀蕎麦など、途絶えかけた蕎麦栽培が復活している。近江にも確かに蕎麦の食文化はあったはずなのに、知る限り、蕎麦を温めて食べる独特の食文化は伝わっていない。鳥居本宿ができて420年、ようやく信州の文化が伝わったのである。大袈裟にいえば、「百百百百」の建物で「とうじ蕎麦」を食べるということは、歴史的邂逅なのである。
かんじんの「とうじ蕎麦」はどうだったか? 歴史的邂逅は3月末まで。「とうじ蕎麦」一人前1500円。天ぷら盛り合わせ、蕎麦豆腐をセットすると2000円。ほかほかと芯から温まる。生蕎麦を温めると食感が変わり、「とうじ」の所作が楽しく、蕎麦がなくなってしまうのが惜しくなるほどである。
僕は肉料理が苦手である。白いところがダメで、上等な霜降りなどは縁がないことを喜んでいる。僕とすき焼きを食べると得した気分になることを約束できる。絶対に肉を食べないかというとそうではない。仲間が「肉を食べに行こう」という空気を読むくらいの余裕はある。そんなときは、赤いところを選択する。人生の半分以上、そんなふうに生きてきた。だから、「これは旨い」と笑顔になるようなヒレかつに出合うことなどないと思っていた。しかも、ヒレかつを食べに行きたい気持ちが芽生えるなど……、僕をその気にさせたとんかつ専門店の話だ。
「とんかつ MIDORIYA」は今年5月のオープン。長碕雄幸さん(41歳)が大津市御陵町の「とんかつ棹(たく)」で3年間修業した後、独り立ちし店舗を構えた。
「とんかつ棹」のとんかつの味と食感に、昼間「これだ!」と思い、夕方には「修業をさせて欲しい」と頼み込んだという。生パン粉を使い熟成豚肉を低温でじっくり二度揚げすることで、ふんわりサクサク驚くほど柔らかい食感に仕上がる。MIDORIYAは棹のDNAを継承しながら、長碕さんが独自の工夫を重ねている。
僕が注文したのはヒレかつ御膳(150g・1780円)。しじみの味噌汁、茶碗蒸しがついてくる。ご飯は一人用の釜で炊いた炊きたて……。お米ってこんなに美味しかったのだと、ご飯だけ食べに行きたいくらいである。釜の蓋をとったときの湯気が美味しさを演出している。
「オーダーが入ってから、一人ずつ調理し、ご飯も炊くので、少しお待たせすることになりますが、ゆっくり楽しんでいただければ」と長碕さんは話す。
さて、ヒレかつはソースまたは岩塩でいただく。きつね色に揚がったふんわりサクサクの衣が心地いい。そして肉も驚くことにほどけるというのだろうか、その柔らかさが嬉しい。熟成された豚肉は旨く〝よく味わう〟のは久し振りだった。どのくらいの柔らかさか上手く伝わるといいのだが、例えば、年を重ねると食べるものが制限されるが、そのハードルがないといえばわかるだろうか。
古民家をリノベーションしたという店内はお洒落で、若い女性客が多い気がした。
長碕さんは「椅子以外は全て大学生の力を借りながら自分たちで創りました。店内から庭を見渡すことができるのですが、庭の手入れや改造はこれからです」と庭だけでなく、これから実現したい計画がまだまだありそうだった。
実は、肉料理が苦手な僕が「とんかつMIDORIYA」には、何度か通っている。あのサクッというひとくち目の食感と肉の旨みが忘れられないのだ。
「MIDORIYAに行こう」と誘われたら断らないだろう。とんかつとは関係ないが、レジの後ろに掛かっている仙台四郎の肖像画も気に入っているのだった。
※長碕さんの「碕」の字はつくりの「大」が「立」ですが、システムの都合上「碕」と表記しています。
]]>店主の浅尾将大さん
今年3月にオープンした「カレー食堂ジャンゴ」には、4月中頃には行列ができていた。開店早々テレビの取材があり、評判を聞きつけたひとびとが詰め掛けていたのである。店主の浅尾将大さんは、立命館大学時代にはキャプテンとしてチームを日本一に導き、卒業後も企業チームで活躍した元アメフト選手。引退後に料理の道にすすみ、地元・滋賀で第二の挑戦をする姿をテレビ局が一ヶ月間密着取材し、放映されたのだ。
「ジャンゴ」のカレーは、「スパイスカレー」といわれる種類のカレー。おすすめにしたがって「4種盛り」を注文すると、中央にこんもり丸く盛られたご飯のまわりに、ポークキーマカレー、チキンカレー、ベジカレー、期間限定のイカレモンカレーの4種のカレーが盛られ、トマトやパクチーなどで彩られて見た目にもきれいな一皿がやってきた。
とろみのない、かといってスープでもないカレーは、私たちが子どもの頃から親しんでいる、カレールーを使って作るカレーとはずいぶん違いそうだ。「ホールスパイスやパウダースパイスを使って、スパイスと素材のうまみをいかしてつくります。うちはバターも使いませんし、自然に近い味わいです。」と浅尾さん。
スパイスカレーは大阪発祥といわれ、近年各地で広がりを見せているスタイルのカレーだ。従来の日本のカレーとも違う、かといってインドやスリランカのカレーそのものでもなく、独自の進化をしており、食べ歩きをするスパイスカレーファンも多いという。「つくり手によってまったく違うのがスパイスカレーのおもしろさ。出汁やコンフィを使うシェフもいるし、驚くようなスパイスの組み合わせをするひともいます」と話す浅尾さんも、鮒寿司の飯や、ジビエを使ったカレーにも挑戦しているという。スパイスと食材の組み合わせは無限大。「国やジャンルにとらわれず、スパイスのプロフェッショナルになりたい」と話してくれた。
さて、カレーをひとくちいただくと、辛さではなく、スパイスの香りがやさしく広がる。それぞれのカレーを味わったあとは、隣同士のカレーをまぜたり、全体を混ぜたり、一皿のなかで、ここでも組み合わせが楽しめる。そうして、あっという間に食べ終わってしまう。飲むようにカレーを食べきってしまった。
「スパイスカレー」といっても、浅尾さんのカレーはそんなに辛いわけではない。「スパイスのいろんな香りを楽しんでほしいですね。煮込むと香りが飛ぶので、すこし低めの温度で提供しています。」と、浅尾さんのカレーには、香りにこだわりの秘密がありそうだ。帰り際、「好きなスパイスは何ですか?」と聞いてみた。「僕はカルダモンですね」と浅尾さん。「スパイスの女王」といわれるような、香りの高いスパイスだ。やっぱり、香りなんだなあ。鼻の奥に残る残り香を感じながら帰路についた。
観光客でにぎわう彦根の夢京橋キャッスルロード。その一角にある「宗知庵」の2階で、「癒し処 Kyou-Nagomi」は今年7月にオープンした。2階にあがると、観光地の喧騒を忘れるような落ち着いた和の空間で、店主の山下京子さんがあかるく迎えてくれた。
山下さんは3年ほど前、お母さんの体調が悪くなったことをきっかけに、整体に興味を持つようになったという。「足が悪かったり、精神的にも落ち込むようになっていた母が、整体に行くと調子がよさそうで、自分でもできたらいいなと思ったんです。通っていた整体院の予約がなかなか取れなかったこともあって、本格的に勉強を始めました」
「Kyou-Nagomi」は、「女性のためのソフト整体」。「服装もメイクもそのままで施術します。女性の方に同伴いただければ、男性の方もさせてもらいます。年内までの特典で、ふたりで施術に来られた方はひとり500円引きにしているんですが、ご夫婦でいらっしゃる方も多いです」と山下さん。聞きなれない「ソフト整体」とはどんなものなのだろう。「からだに負荷が少なく、じわーっとくるような感じですよ。まあ、試してみてください」ということで、山下さんに誘われてマットに寝転ぶ。
今回わたしが受けたのは、初回におすすめという、骨盤と気になる箇所一箇所の調整、そしてフェイスほぐし(30分通常4000円、初回特典2000円)。ふだんはあまり体の歪みを意識することもないが、山下さんにチェックしてもらうと、足の長さが少し違うことや首がストレートネック気味なことを指摘された。まず右側からお尻のまわりなどをほぐす骨盤調整をしてもらい、山下さんに「右と左のお尻の位置を確認してみてください」と言われ両手で触ってみると、施術を受けた右側が上がっていて驚く。とくに痛みも感じず、ゆるゆるとほぐされるような感じなので不思議なほどだ。なるほど、この感じがソフト整体か…と思いながら、フェイスほぐしを受けているうちに、わたしは気づいたら少し寝てしまっていた。終わりましたよ、と山下さんの声で目を覚ますと、視界が明るくすっきりしているような感じがした。全身をしっかりほぐすのは2回目からがおすすめという。
「1回施術しても、長年の習慣で体が戻ってしまいます。最初は週1回で5〜6回、そのあとは月1回くらいに切り替えていくのがいいと思います」
体を触ってもらうと、思わぬ場所がよく効いたりして、自分の体の発見になるような気がした。「手術が必要になったりと本格的に調子が悪くなる前の、ちょっとした不調や歪みをチェックして整えるお手伝いがしたいんです」と山下さん。施術がお手伝いできるのは一割くらいで、あとは栄養・運動・睡眠が大切とも教えてくれた。日々の生活習慣の歪みは自分で整えるしかないが、体をゆだねてその歪みを確認してもらえる場所があるのは心強いことだなあと思う。