淡海の妖怪

ショウケラ

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2017年11月7日更新

宗安寺 青面金剛 前立ち像

 少し前の話になるが、彦根の本町にある宗安寺を会場に「HIKONE STUDENT ART Award 2017」というイベントが行われた。全国の美術系の大学や専門学校の学生を対象にした、滞在アートプログラムである。気になる作品もいくつかあったが、宗安寺の青面(しょうめん)金剛に扮して彦根の町に繰り出す大西晃生さんの映像作品に興味を覚えた。青面金剛は妖怪「ショウケラ」と深く関わりをもっているからである。

 宗安寺の厄除庚申尊にはこんな謂われがある。
「庚申尊は青面金剛という仏教の守護神で、江戸時代、庚申の夜に青面金剛神をまつって徹夜する庚申待が盛んに行われたので、庚申さまという。庚申待というのは、道教で、庚申の夜、人が眠っている間に、体内に住む三尸虫(さんしちゅう)が天に上ってその人の罪過を報告、天帝はその報告によってその人の寿命を縮めるという説があり、これを防ぐため庚申の夜は三尸虫が出ないよう一晩夜明かしをするというものである。
 宗安寺の庚申尊は、元文5年(1740)尾張東照宮別当の導師により開眼され、彦根寶珠院に安置されていたが、明治維新の神仏分離政策で、寶珠院は廃寺となり秘仏として宗安寺が預かった。厄除けの神様として拝まれている」。

 鳥山石燕という江戸時代後期の浮世絵師がいる。石燕は妖怪画を数多く描き、『画図百鬼夜行』に天井の明かり取り窓を覗く「せうけら(ショウケラ)」の一枚がある。
 『日本妖怪大事典』(編著:村上健司)には、「石燕による解説はないがショウケラは庚申信仰に関係したものといわれる。(中略)石燕の描いたショウケラは、この庚申の日に現れる鬼、ということがいえるようである」と記されている。その他、ショウケラを「三尸虫のことである」としているものや、三尸虫の中でも「中尸」であるとする説などショウケラの正体は、他の妖怪同様に様々である。
 
 ショウケラを語るキーワードは三つだ。
 「青面金剛明王」……青面金剛明王は、日本の民間信仰の庚申信仰の中で祀られた尊像で、三尸虫を押さえる(喰らう)守護仏とされる。
 「三尸虫」……人間の体内にいるとされ、上尸・中尸・下尸の3種類がいる。それぞれ頭と胸、臍の下にいるとされ、庚申の日に抜け出し天帝に罪過を告げる。
 「庚申」……かのえさる・こうしん、十干と十二支の組み合わせ。十干は甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。庚申57番目。2017年は、2月2日、4月3日、6月2日、8月1日、9月30日、11月29日が庚申にあたる。

 庚申講(庚申待)は全国の広い範囲で盛んに行われており、庚申講を3年18回続けた記念に建立されるという庚申塚を一度は目にした人も多いのではないだろうか。庚申講が記念碑を建てるほどの偉業であるところが実に面白い。
 庚申の日に何をして夜を徹し過ごしたのか、地域独特のものがあったに違いない。その過ごし方が、「ショウケラ」という全国にいる妖怪を地域固有のものとしていく。近くに青面金剛明王を祀る寺や庚申塚の在処をご存知の方は是非、編集部までご一報を! 今はもう途切れた庚申講の記憶を紡いでいけば、淡海の「ショウケラ」の輪廓が浮かび上がるだろう。
 さて、先にも書いたように、2017年11月29日が庚申の日である。2018年は、1月28日、3月29日、5月28日、7月27日、9月25日、11月24日である。「ショウケラ」という妖怪を知った以上、もう普段通りにはいかないはずである。考えてみれば庚申にかこつけて大手を振って夜更かしできる日である。有意義な徹夜を心掛けたいものである。

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