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淡海の妖怪

かわうそ

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2021年8月28日更新

 琵琶湖の沖島には漁師に悪戯をするかわうその話が伝わっている。
 小糸漁は真夜中に船を出し、朝方網をあげるので猟師は一晩を船上で過ごす。真夜中に船を出すため、昔は寝過ごさないよう「起こし番」というのがあった。起こし番は「イコケーイコケー」と仲間を起こして回るのだ。ある晩、「イコケーイコケー」の声が聞こえた。仲間の船まで行くと、まだ誰も来ていない。湖岸で米をとぐ音がするので、近づいてみると女の姿があった。かわうその悪戯である。
 小糸漁は、琵琶湖独特の小鮎漁のひとつだ。夜、沿岸部で餌を食べ夜明けに沖合に移動する小鮎の習性を利用した漁である。DADA695号に記事を書いたので時間があれば読んでいただければと思う。小鮎は琵琶湖にしか生息しない魚である。故、「起こし番」のかわうそも淡海にだけ存在する妖怪なのである。
 湖岸で米をとぐ女の姿は、小糸漁が夫婦で漁に出ることが多いことに関係しているのではないだろうか……。
 ニホンカワウソは北海道から九州まで広く生息していたが2012年、環境省のレッドリスト改訂で正式に絶滅が宣言された生物である。犬上郡多賀町萱原にはかわうそが二丈坊という大きな坊主に化けたという話がある。かつて淡海にも湖岸から山の奥までかわうそが生息していたことがわかる。もはや妖怪のかわうそからしか、その存在の痕跡を辿ることができないのかもしれない。

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