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淡海の妖怪

滅鬼の一族

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 多賀町 2021年7月6日更新

調宮神社の林にある奇岩

 以前、長浜市の「メタテカイ(目検枷)」という犬の話をしたことがある。
 毎年、湖上の祭神(怪物)に平方の村から人身御供として娘を差し出す習わしがあった。ある男が、怪物が「メッキに言うなよ、メッキに言うなよ」とつぶやきながら現れることを知り、メッキが何者かと尋ね回り、野瀬の長者の愛犬「メタテカイ」のことだとつきとめた。
 メタテカイは怪物退治に挑み、格闘の末怪物を倒したが自らも大きな傷を負い死んでしまった。怪物は「かわたろう」だったとも、「かわうそ」、あるいは「猿」だったともいわれている。メタテカイのかみついた鋭い歯の痕が、いくつも怪物の体に残っていたという。メタテカイに感謝し霊を祀ったのが「犬上明神」であり、墳墓が「犬塚」といわれている。「犬上明神」は江戸時代、「平方天満宮」となった。
 『淡海國木間攫』に、「坂田郡平方村ニ逸物ノ犬アリ其ノ名ヲ目検枷ト云犬ノ子小白丸ト云犬ヲ秘蔵シテ飼置養イ」とある。目検枷の子、小白丸は、稲依別王命(いなよりわけおうのみこと)の愛犬である。大蛇と闘って稲依別王命の危機を救い、犬上川上流にある「大瀧神社」本殿横の「犬上大明神」に祀られている。多賀大社の「参詣曼荼羅」(安土桃山時代)にも小白丸の姿がある。
   
 怪物が恐れたメッキは野瀬の長者の愛犬メタテカイである。「滅鬼」と書くのだろう。妖怪と闘う定めの一族がいたのだと考えていた。メタテカイの漢字「目検枷」の意味が判然としないまま10年以上が過ぎてしまった。
 先日、多賀町栗栖(くるす)の調宮神社(ととのみやじんじゃ)に行く機会があった。今更『鬼滅の刃』については語るつもりはないが、竈門炭治郎が切った大岩を彷彿とさせる奇岩が林のなかにあった。周囲とは明らかに雰囲気が異なっている。切った痕がいくつもあり聖地にはならないだろうが、修練場としては通りそうだ。「鬼滅」ではなく、「滅鬼」について再思考してみようと思った。
 野瀬の長者の愛犬メタテカイ。「野瀬」とはどこだろう。旧浅井町の野瀬だというが根拠がわからない。メタテカイも小白丸も「犬上大明神」として祀られているところから、犬上郡内、或いは犬上川沿いに野瀬の位置を求めるのが自然ではないだろうかと思う。
 メタテカイの漢字は「目検枷」、「目検解」、「目建解」などがあるが、「目検枷」だと理解できる。「目検」は「目で見極める」ということ。「枷(かせ)」は「人の行動を拘束・束縛するもの」、ズバリ鬼の類いを想定しているにちがいない。
 つまり鬼を見極める目を持つ犬がメタテカイなのではないだろうか。だとすると小白丸はあまりに普通すぎて違和感がある。別名があるのかもしれない。
 目検枷も小白丸も滅鬼の一族、犬上の鬼殺隊のようなものかもしれない。

 

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