ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXIX 九の通りのテルちゃん

このエントリーをはてなブックマークに追加 2012年11月10日更新

イラスト 上田三佳

 猫のマメが僕らの布団に潜りたがるので、いよいよ秋と思います。
 僕らが住んでいる集落は琵琶湖に面しているので、秋の終わりから冬にかけてはしばしば、西からの強い冷たい風に曝されます。それをやり過ごす工夫が古くからの町並みに表れている。
 湖岸に平行して、集落の端から端まで南北に、バスの通れる、車二台が行き違える幅の大通りがある。その大通りから東西方向に、人が二人行き交えるだけの細い路地が、櫛の歯状に並んでいる。櫛の歯の路地は北から順に、一、二、三、四・・・計十三本。
 荒々しく吹き付けてくる強風を、十三の路地で「くしけずり」、力を殺ごうという構えです。
 この路地ごとに向こう三軒両隣が、それぞれひとつずつ、計十三の班を形成しています。僕らの家は集落のちょうど真ん中あたり、九の通りに面しているので九班の一員ということになります。十軒からなる仲間です。
 この十軒で宮さん掃除に川掃除、浜や公園掃除から、球技大会運動会、グランドゴルフにお葬式まで、いろんな行事を力合わせてこなすわけです。
 僕ら夫婦は六年前に越してきたのでまだ新入りと思っていたら、昨年ついに班長の役が巡って来た。大変でしたが都会育ちの夫婦なもので、新鮮さもあり面白かった。ご近所さんはいいもんだなあと知りました。
 とりわけ僕らにうれしいことは、ここで生まれた僕らの娘、「うちの子」が、「うちの子」ながら「みんなの子」として育っているのが見えること。
 班のみんなに配り物する母さんに三輪車キコキコこいでついていったら、行く先々のおばあちゃん、おじいちゃんからお菓子とか、お下がりのおもちゃをもらったりして、いつの間にやらテルちゃんは「九の通りのテルちゃん」でした。

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