ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXXVIII 万事キュウス

このエントリーをはてなブックマークに追加 2014年6月4日更新

イラスト 上田三佳

 教え子とその仲間が鈴鹿山麓の集落でお茶作りに挑戦しています。天下に名の知れた銘茶の産地で、一人は春からそこに住みついて本格的に挑んでいます。
 二年半前、当時の区長さんがふと「これまでにいろんな先生や学生がここを調べに来てくれました。でもみんないつの間にかいなくなる」とつぶやかれたのが始まりでした。
 山間なので平地より幾分遅れていよいよこれから、五月のおわり、彼らにとっては二度目の茶摘みの季節です。
 さて、各茶農家がそれぞれに銘柄を競う茶郷にあって一番おいしいお茶を飲ませた場所はというと、それは小学校でした。児童がそれぞれ自家製茶葉を持ち寄って、それがブレンドされたのが一番おいしかったというのです。その学校ではかつて「チャムチャムパーティ」なる楽しげな茶会があったとか。
 そんな銘茶の郷でなくとも、どこの郷でも、あるいは近所の畑の一角にでも、茶の木が今でも植わっているのを時々見ます。かつてはこの時期どのお家でも自家製の茶を作って飲んだ。
 あるお婆さんが思い出に、家で作ったお茶がなんとも「シターっと甘かった」と言いました。おなじ甘さでも「シターっと」甘いって、いったいどんな甘さだろう。その口ぶりがいかにもおいしく甘そうで、それ以来探求しているあこがれの味の一つです。
 茶の味といえば、じつは二年半前、区長さんから僕にも宿題が課せられました。「茶の味の分かる学生を育てて下さい!」と。
 茶の国のために確かにこれは急務ナレドモ、一人暮しに急須も持たない子らが一般の今、どんな人材育成よりも難題ダ。この件未ダ返答ニ窮ス。万事キュウスか?

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