和室の小宇宙

齋藤友佳子さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2011年5月8日更新

床の間の書と生け花

 床の間に、書が掛けられ花が生けてあった。庭に視線を転じると濃い桃色の花の残像が重なった……。
 齋藤友佳子さんは、「どの道も上達しなければという気負いをもたずにいたことが、続けてこられた理由のひとつです。書道をしてちょっと疲れたなと思ったらお茶を点て一服して、一息ついたらピアノを弾いて……そんな感じですよ」。
 詩人でもある。書道、華道、茶道、ピアノ、それぞれ始めたきっかけは単純で、近くに先生がいたからとか、友達に誘われたとかで、お茶を点て詩を書いていた祖母の姿に憧れのような気持ちがあったという。
 床の間の書は「柳絮随風(りゅうじょかぜにしたがう)」と書かれている。齋藤さんの好きな言葉だという。ケ・セラ・セラの意味をもつそうだ。「最近は、傅山(ふざん)の書風に興味をもっています。勢いがあって自由奔放なところが気に入っています」。
 茶道も華道も書道も、全部つながっていると齋藤さんは考えている。「和室にはこの三つの要素が揃っているでしょう。私なりの和室、小宇宙のようなものを作りたいと思っているんです。そのために興味をもち続け深めていきたいです。決まりごとはありますが、遊び心を忘れずにいたいですね」。

齋藤友佳子さん

 床の間に、掛物をかけ、季節の花を生ける。そこに静かに対峙した瞬間、心にはどんな思いが流れるのだろう……。茶を点てる齋藤さんをカメラのフレームに納めた時、私のなかにも宇宙が生まれた。
 柳絮を調べていると杜甫の詩に至った。

 腸断春江欲尽頭
 杖黎徐歩立芳洲
 顛狂柳絮随風舞
 軽薄桃花逐水流

「顛狂柳絮随風舞」「軽薄桃花逐水流」と続いている。「柳絮」は、白い綿毛のついた柳の種子のこと、或いは、それが春に飛び漂う様をいう。柳絮が風に漂い、水に桃花が流れる。床の間の桃色の花の残像が再び重なった……。柳絮は、つかまえることができれば、夢が叶うケセランパサランのようなものだろうか。床の間が、とてもおもしろいものに思えた。
 近く齋藤さんの書と風致生けをコラボレーションさせた作品展がある。風致生けは野趣的な花材や石、古木、小道具を使用することによって自然の風景を写実的に表す生け方という。
 「この字体がおもしろいか、好きかでいいんです。嫌いならどこが嫌いかをわかればもっといいんです」。
 漠然と、好きとか嫌いとかではなくちゃんと理由を自分で解ることを教えられたような気がした。

「齋藤友佳子 書と風致生け展」

2011年5月18日(水)〜22日(日)
東近江市立八日市図書館2F(東近江市八日市金屋2-6-25)
TEL: 0748-24-1515
開館時間 10:00〜18:00(最終日は15:00まで)

お問い合わせ
齋藤友佳子さん
滋賀県東近江市今崎町427 / TEL: 0748-22-7015

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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