『トチノキ巨木の森を守る』を出版
東近江市小今町 水田有夏志さん
「トチノキは幹回りが3メートルを超えたものを巨木と呼びます」や、「薪炭材には不向きだったことから伐採を免れたこと、栃の実は食用になるので大切にされたのでしょう」と、トチノキ巨木について教えて下さったのは東近江市に住む水田有夏志さん(62)だ。先月、『トチノキ巨木の森を守る 高時川源流域の自然と暮らしの中に息づいてきたトチノキの森』を出版された。水田さんは、県の林業技術職員として治山、造林、林業振興など森林行政に長く携わり、趣味は登山、森林インストラクターなどの資格も持ち、文字通り森の専門家である。その水田さんが、「豊かな植生を持つすばらしい森」と絶賛されたのが、長浜市北部の高時川源流の森で、著書にはその素晴らしさを知るきっかけとなったトチノキ巨木との出会いから、保全活動に至るまでの経緯が記されている。
2009年、湖北環境・総合事務所に勤務していた水田さんは「県内最大級の幹回り7.8メートルのトチノキが余呉で自生している」と報じた新聞記事をきっかけに森へ入っていく。もちろん、「トチノキ巨木を見たい!」から。2度目の登山でやっと出会えたトチノキ巨木に感動するが、ほどなく新聞で報じられた木ではなかった事がわかり、再びトチノキ巨木を目指すことになる。「巨木といっても、山の中で探すのは並大抵ではなく、道もない訳です」と水田さん。 地元の人たちの記憶などを頼りに、実際に道案内もお願いして7.8メートルの巨木にたどり着くが、この間、数多くの巨木が自生していることを知り、地元の人たちとの交流も深めていったそうだ。「今まで、湖北の山とはあまり縁がなかったことが幸いしたのかもしれません」。地元の人たちから聞いたかつての山の暮らしぶり、生活の知恵、地名の由来など水田さんは聞くほどに興味を深めていく。出版された『トチノキ巨木の森を守る』は、水田さんの深まる興味を一緒に楽しむように面白く読むことができる。
かつて高島市朽木でトチノキ巨木の伐採問題が起こったことをご記憶の方がおられるかもしれない。このことがきっかけとなり、県による巨樹・巨木の森整備事業が始まったことにも触れている。巨樹・巨木の保全とかかわりのある林業を巡っては、まだ解決策は見いだせていないが、それは林業者だけの問題ではないことも教えている。地元では、「高時川源流の森と文化を継承する会」が結成され、トチノキ巨木の森の保全と、山村文化の継承に取り組んでいる。また、豊かな自然環境を活かしながら山村振興を図るため、県と長浜市が連携して「山を活かす、山を守る、山に暮らす」都市モデル事業を展開中だそうだ。
現在、トチノキの県内最大は余呉町奥川並にある9.8メートルで、2位は余呉町田戸の8.11メートル。水田さんたちは、今後、巨木を見るツアーを行いたいと登山道の整備などを進めていると話す。「トチノキ巨木を見たい」、全てはその気持ちから始まる。ツアーの案内が楽しみだ。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【蜻蛉】