ヒップホップ&作業療法士

慎 the spilit・MINIYON

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2018年2月6日更新

 昨年秋、ラッパー 慎 the spilitとDJ MINIYONのライブを見に行くため向かったのは、長浜市立北中学校の体育館。生徒を対象としたPTA主催の「講演ライブ」だった。
 慎 the spilitこと佐々木慎さん、MINIYONこと田中孝史さんは、それぞれ作業療法士として働きながら、音楽活動をしている。ふたりは滋賀医療技術専門学校を卒業後、同じヒップホップ・ミュージックのジャンルで活動するOB同士として出会い、一緒にステージに立つようになった。作業療法士として働くなかで日々感じていることをヒップホップ・ミュージックで伝えたいという思いが、ユニットを組むきっかけだったとふたりは話す。
 作業療法士とは、医療や介護などの現場で、日常生活に関わる活動などを通して、そのひとらしい生活ができるように支援する仕事だという。療法の対象はさまざまで、佐々木さんは豊郷病院の精神科病棟で、田中さんは近江八幡のヴォーリズ老健センターで働いている。

 佐々木さんは「うつ病や認知症など、こころの病気や障害は、周囲からは辛さが想像しにくいし、誤解もされやすい。自分も、かかわるまではそうだったと思う。でも、そうなった背景には何があるのか、どんな思いをしているのか、それを代弁するような形で曲を書いている」という。
 ヒップホップ・ミュージックといえば、DJがプレイする音楽に乗せて、韻を踏みながらリズミカルに話すようにうたう「ラップ」。一見、作業療法士の仕事とは無縁な、意外な組み合わせのようにも思える。けれども、アメリカの黒人ストリートカルチャーから生まれたヒップホップの歌詞の内容として大切にされているのは、地元や自身のコミュニティに根ざした、「リアルな自分の思い」を表現すること。だからときに、ラッパーが唄う歌詞は自伝的であったり、日記のようであったりする。
「滋賀のことを伝えるのはもちろん、作業療法士の自分にしかできないことを表現した。それで少しでも病気への理解が広がったら」と佐々木さんは話す。
 昨年一月には慎 the spilitのアルバム「LAKESIDE B」が発表され、そのなかに「僕にできること 〜作業療法士として〜」という曲がおさめられた。

幻覚や妄想があったら本当にその人はダメなのかな?
そこに至るまでに何かあったんじゃないか
それを考える努力をしたい 共感なんて簡単じゃない、が
共に歩みたい 共に感じたい 共に悩みたい

と佐々木さんは唄っている。一方曲提供などでアルバムに参加した田中さんは「作業療法士の仕事は、そのひとの生活や、やりたいことを支える仕事。自分がやりたいことを大切にしていなかったら、ひとを支えられる訳がないから、音楽も手を抜けない。仕事も10年以上続けてきて、作業療法士としての経験をなにか返せることがあればと思っていた頃に、彼と出会えた」と話す。
 その日の講演ライブでは、突然の爆音ライブにはじまり、最初はぽかんとしているように見えた生徒たちも、佐々木さんの話に徐々に引き込まれていったようだった。終演後、一緒に座席を片付ける佐々木さんを囲んで話しかける生徒や、ラップのまねをしながら教室へ帰っていく生徒たちがいたのが、なんだかいい風景だった。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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