波兎、北風に至る……

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2011年4月25日更新

 『波兎の文様』コレクターである。古くから人気のある文様で家紋や陶磁器によく使われている。文様の名は別名『竹生島文様』とも呼ばれ、その名は謡曲『竹生島』に由来する。

 緑樹影沈んで
 魚木に登る気色あり
 月海上に浮かんでは
 兎も波を奔るか
 面白の島の景色や

 少なくとも僕は『竹生島』に由来するとそう考えている。ならば、淡海発祥ではないか!
 また、波間を翔ぶ兎は日本最古の歴史書『古事記』に記された『因幡の素兎』のイメージだ(素兎はしろうさぎ)。後にオオクニヌシとなるオオナムチがウサギを助ける話である。
 隠岐の島に棲んでいた兎が、本土に渡りたいと憧れ、鰐(わに)を騙して、隠岐の島から気多の岬まで渡った……。
 琵琶湖には「沖島」が、彦根市の南には「稲葉」という地名が、そして対岸の大津市には「和邇」の地名が、更に、稲葉には昔「気多原」と呼ばれた場所がある…。
 これはもう、『古事記』の『因幡の素兎』は淡海の物語ではないかと思えてくる。更に、更に、稲葉神社の灯籠には『波兎の文様』が彫られている。
 そして、湖の畔にはふと気づくと『波兎の文様(竹生島文様)』が飛び込んでくるのだ。例えば、『波』は、屋根にある。正月、卯年に因み、五個荘金堂町の民家の波兎と、東近江市の垣見天神社(佐野町)のそれを紹介したが、彦根の銀座裏をぶらぶらしている時に、芹橋七丁目に御堂があり立派なものだと眺めていると、台座に『波兎の文様(竹生島文様)』があったりする。
僕には「この辺りにあるんじゃないだろうか」と感じるセンサーが既に備わっているかのように文様が飛び込んでくる。

 前置きが長くなったが、僕が『波兎の文様』コレクターだと親しい友人は知っていて、立派な木彫りの文様を届けてくれた。
 午前9時を少し過ぎた頃、事務所を訪れた友人が「こんなものに価値を見出して、喜んでもらえるのは君だけだ」というのだ。この文様は相変わらず実にキュートである。友人は、春祭りの準備の際、神社の古くなった物を捨てる係をしていたそうだ。「燃えるものは、宵宮のかかがり火にほり込んでしまえ」という指示だったらしい。そうしたら、写真の波うさぎの木の彫刻が出てきた。それを見て、僕を思い出し、後生大事に抱えて持って来てくれたのだ。燃やされる運命にあったとしても、僕にとっては宝物である。無茶苦茶に嬉しくて仕方なかった。勿論、些細な話を忘れず、ゴミの中から文様を見いだし、届けてくれた友人の心遣いにである。
 波兎、北風に至る。毎日、眺めて、僕は幸せを味わっている。「この辺りにあるんじゃないだろうか……」、独りほくそ笑むのである。

小太郎

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