Fox Hole no.5

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2021年12月8日更新

狐の穴

 「Fox Hole」、文字通り「狐の穴」である。今まで何度かFox Holeについて書いてきた。ある程度のボリュームがあるものはDADAジャーナルで4回ほど。最初の原稿は2017年、この原稿を5回目とする。
 Fox Holeは稲荷の社に空けられた穴のことだ。コンクリートや石組みの台座に空いているものもある。Fox Holeの最初の発見者は小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)だ。『新編 日本の面影Ⅱ』に、Fox Holeのタイトルがある。八雲が「Fox Hole」と記し、翻訳者が「狐の穴」とした。「稲荷神社の社殿の裏手の壁には、たいてい、楕円か円形の穴が開いているのを見かける」と書いている。
 僕が知る限り日本語でこの穴について言及した書物はない。日本古来の正式名称があるのかどうかも今のところわからない。
 湖東湖北のごくわずかな場所でしか蒐集(コレクション)していないが、ひよっとするとFox Holeの蒐集は世界初かもしれない。社寺を巡りどんな神様か仏様がおいでになるのかわからないとき、稲荷社かどうかをズバリと判断できるところが素晴らしいのである(ただそれけなのだが……)。

仙琳寺3つの社

 こんもりとした山にある仙琳寺(彦根市古沢町946)は、彦根藩第4代井伊直興の庶子本空(幼名千代之介)を開基とする天台宗の古刹である。直弼もこの寺で茶会の亭主をつとめるなど親密な関係にあった。また、寺の東側(佐和山側)の斜面、竹薮の中にある石田三成の茶の井(伝)、石田地蔵、首から上の病にご利益があるといわれている恵明権現など、僕にとっては興味津々なスポットなのだ。
 鬱蒼としていた西側(琵琶湖側)斜面が整備され、陽が差して清しい場所になっていた。今まで見えなかった古い社が3つ並んでいた(随分長い間忘れられていたようだ)。
 社は向かって右から大中小、古さは判断しにくいが、大きな社が新しく、小さな社が最も古い様子だが、いつの時代のものかまではわからない。早速、Fox Holeを確かめると全て稲荷社だった。どういうわけで3つも並んでいるのだろう。祀られているのは、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)か、荼枳尼天(だきにてん)か。鳥居が建っていた気配がないので、仏教系の荼枳尼天かもしれない。
 石田三成の佐和山城時代には、この辺りに修験者がいたといわれている。何の根拠もないが、戦国時代の勝利を祈った稲荷、江戸時代の子孫繁栄・五穀豊穣を祈った稲荷、そして現代、商売繁盛を祈った稲荷、そんなふうに考えてみる。妄想は、どこまでも翼を拡げる。
 八雲は異邦人で日本に興味を持った。僕らはもう日本の文化に関してハーンと同じなのだ。必要なのは好奇心だけのようである。

 

風伯

スポンサーリンク