キュレルの居心地

　「我が家のように……」という表現を、ときどき使うことがある。でも、我が家にはないもの、プラスアルファがあるからこそ、その場所に心惹かれるのだと思う。その何かとはなんだろう……。
　五個荘にある「Natural Kitchen Cure’l（ナチュラルキッチンキュレル）」は、昔ながらの家々や神社がたたずむ風景の中にある。歯医者さんだった建物を改装したのだとオーナーの安藤恵さん（34）に教えていただいた。
  「ヘルシーセット」という月替わりのランチやデザート、ブランチなどがある。事前に予約しておけばヘルシーセットをアレンジしたテイクアウト用のランチボックスに仕立ててもらえる。すべて安藤さんの手作りだ。
　「ふだんは祖母が作った料理を食べることが多いのですが、自宅で食べているものの続きのような食事メニューになっています。肉や魚があまり得意ではないので野菜中心ですね」。
　私がお邪魔したときはお昼どきを過ぎていたこともあり、ドリンクを注文することにした。さんぴん茶や、たんぽぽの根を使ったノンカフェインのコーヒー、サワードリンク……、こちらも体を気遣ったものばかりだ。安藤さんは、自家栽培のハーブを使った「リフレッシュレモンティー」をすすめてくださった。普段のレモンティーと比べると格段に香りが高く、とてもすっきりしている。ポットにはレモングラスや、初めて見たレモンバーベナというハーブがたっぷり入っていた。

　暖色のライトに照らされていると、外の時間の変化に疎くなっていく気がする。「店名は英語の『care』の造語です。ケアする、癒すようなお店でありたいという気持ちと、ここが歯医者さんだったことにもちなんでいます」。お店も、店名の語感も、安藤さんの雰囲気と同じ空気をまとっている。
　実は、月替わりのメニューだからもう出会えないかも……という理由をつけて事前にランチボックスをお願いしていた。雑穀米のおにぎり、自家製パン、おからコロッケにお惣菜。やさしい味が詰めあわされていた。本当はキュレルさんで食べるのが一番なんだろうな、と思いながら、我が家に帰って、いただいた……。
　そして、改めてキュレルの居心地というものについて考えているのだ。靴を脱ぎ、店内に入る。小さな窓があって、奥のキッチンがちらりと見える。 キュレルという場所は安藤さんにとって我が家の延長で、とても居心地のいい場所なのだと思う。ここに来る人は、その心地よさに共感しているのだ。 我が家にないプラスアルファの答えは、なんとなくそんなところにあるような気がしている。

【椰子】