原点のD51に夢を乗せて

吉野毅さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年4月2日更新

 D51蒸気機関車、通称「デゴイチ」が現役だった時のことを知らない。それでも、吉野毅さん(彦根市高宮町)の制作した全長2メートル50センチ、総重量200キログラム以上ある黒く光るミニチュアのデゴイチを見た時、その迫力と美しさに感動を覚えた。
 高宮町に暮らす吉野さんは現在75歳。金型の設計施工に40年近く従事し、自動車のエンジン部分に使われる部品などを作り続けてきた。73歳の時、人生の集大成として何かを残したいと思った。デゴイチの精巧なミニチュアを金属で作ろう……そう決心した。それから約2年半、朝から晩まで工場にこもり、部品ひとつひとつの形状や大きさを調べて図面に書き起こし、全ての部品を自らの手で金属を削り出し組み立てていくという気の遠くなるような作業を続けてきたのだそうだ。

 実をいうと吉野さんは鉄道ファンではない。ではなぜ人生の集大成として作るのがD51だったのかと尋ねると「機関車、特にD51は機械の原点です。そして列車というのは様々な人生を乗せて走り、多くの人の思い出がぎっしり詰まっているものだと思うんです。中でもD51は日本人の思い出が一番詰まっている列車ではないかと思って」と話してくれた。自らが培ってきた技術の集大成として、そして次の世代への贈り物として吉野さんはD51の中でも一番姿が美しいと感じるD51200型を選び制作してきた。
 最初は市販の模型を拡大したものを作っていたのだが、次第と職人魂に火がつき、本当に動くようにと本物の機関車を観察したり文献を調べながら内部構造も着手。その作業は、本人も少し後悔したと話すほど難しいものだった。特に車輪のシリンダー部分には相当の苦労をしたそうだが、蒸気だけではなく電気でも動くようにと現在最後の作業に取りかかっているとのことだ。

 今後は内部構造の最終仕上げを行い、年内にはお披露目できるよう工場の一部を展示スペースに改装し、背景も伊吹山など近江の風景を模型で再現してデゴイチを走らせる予定なのだと笑顔で話してくれた。
 最後に吉野さんとデゴイチの思い出はと聞くと、「兄が蒸気機関車のシリンダー部分だけを作って動かしているのを見て、面白いな、ええなと思ってました」とのこと。やはり根っからの職人だ。吉野さんのD51がたくさんの人の感動を乗せて走る様子を見るのが今から楽しみだ。

編集部

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