パパの小さい時は……

寺西充曜さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2013年7月31日更新

寺西充曜さん

 寺西充曜(みつあき)さん(30歳)独身。読売新聞彦根東の店長であり、クリクラ湖北の所長である。そして、愛すべき「牛乳の蓋」コレクターである。
 『経済ってそういうことだったのか会議』(佐藤雅彦・ 竹中平蔵 / 日本経済新聞社)でその蓋の価値と交換について記されているが、それは都会の話である。小学生の時に集めた経験のある人は多い。僕もそうだが、数を競いメンコのように遊ぶためのものだった。または、集めた蓋で何かしらの作品を作るためだった。夏休みの宿題では誰かが蓋を使って工作をしていたし、教室には蓋で作った暖簾がさがっていたりした。
 田舎では決定的に手に入る種類が少ない。せいぜい大手メーカーの蓋とコーヒー牛乳やフルーツ、リンゴのバリエーションくらいなものである。他地域まで出かけていって収集をするというほど熱狂的なブームは訪れることはなかった……。寺西さんは、大阪府東住吉区の出身である。流石に都会の事情は違うわ!と実感した。
 寺西さんの場合、「ぱっこん」或いは「ぽっこん」という遊びを牛乳の蓋でするために集めていたのだという。最初はビックリマンシールで「ぱっこん」をしていたのが、小学生の経済的理由からお金のかからない牛乳の蓋で「ぱっこん」をするようになったらしい。
 この遊び「ぱっこん」が面白い。基本はメンコである。場に出た蓋を裏返すことにより所有権が移るところは同じだ。
 まず、お互い等価の蓋を出す。相手が3枚出せば、こちらも3枚、レアな「いかるが牛乳」を出してきたら、こちらもそれと等価な蓋を出さなければならない。場に出た蓋の並べ方のアレンジは自由である(重ねても良い)。
 問題は裏返し方だ。メンコでは手に持った一枚を場に叩きつけてその風圧で場の蓋を裏返したり、手を叩いてできる風で裏返すのだが、「ぱっこん」は口で息を吹きかける。口をつむぎ「ぷはっ!」っと一点に集中した風を作る。アレンジの仕方と風の集中でかなりの枚数を裏返すことも可能だ。おそらく東住吉区のごく限られた地域で特定の世代にだけ流行った遊びだろう。

 寺西さん以外に牛乳の蓋コレクターが存在するのかどうかネットで調べてみると、驚いたことに実際にオークションが行われていた。「もう随分無くなりましたが」と出して来られた蓋にも値が付いている。「ぱっこん」で集めたお宝である。
 何も考えず寺西さんに「どれくらいの値になるでしょうね」と問うたことに後悔したが遅かった。「絶対に売りません」と予想通りの答えだった。「自分の子どもに、パパの小さい時はこんなんやったんやでと、みせてやりたいんです」。僕にとって単なる牛乳の蓋のコレクションだった塊が、一枚一枚がものすごく大切な蓋になった。このレアな一枚を手にするためにどれほどのエネルギーが費やされたのだろう。「ぱっこん」の裏の物語もあるに違いない。
 「パパの小さい時はこんなんやったんや…」
 素敵な言葉である。

寺西充曜さん

クリクラ湖北
〒522-0043 彦根市小泉町字天王688-3
フリーダイヤル  0120-775-884
TEL: 070-5438-7664

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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