鉄作家×鍛冶屋のまち

鉄作家 山田大輔さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2013年1月25日更新

鉄作家の山田大輔さん

 「人生の第二章がここで始まったみたいです」。鉄作家である山田大輔さんが昨年秋、長浜市鍛冶屋町に移住し湖北で新たな風を起こそうとしている。
 鍛冶屋町は名前の通り鍛冶職人が多く暮らした土地である。その歴史は古く、秀吉の時代には武具の生産で活躍し、その後は農鍛冶へと形態を変えながら技術を継承してきた。山田さんが人生の交差点を、この鉄と深い関わりを持つ地で迎えた。
 もともとは岐阜県関市で鉄工所に勤めながら製作活動をしていた。芸術家志望だったわけではないが、自分を表現したいという衝動にかられ独学で作品を製作するようになったのだという。その作品は、それが金属であることを忘れてしまう美しさがある。2010年製作の「雪椿」は葉の一枚一枚やめしべの花粉までもが繊細に表現され、国内のみならずフランスからも評価を受けた。
 転機が訪れたのは昨年始め、前職を離れたことがきっかけだった。悩んだ末に独立を決心。たまたま訪れた長浜で国友鉄砲の歴史に惹かれ、そこで出会った人たちとのつながりに導かれ単身で鍛冶屋町へ移住した。42歳、2児の父としては大きな決断であった。

 そして内保町にある草野鉄工所の一角を借りて「鉄工房 樂(がく)」をオープン。鉄という素材を用いて自分自身や依頼主の心の中にあるイメージを形にするための独立だった。現在は家具に使う小さなフックから看板や門扉に至るまで、鉄で形作れるものであれば幅広く注文を引き受けている。オーダーメイドの強みは依頼主のイメージやこだわりを具現し、世界に一つだけのものを生み出すことができること。そのため徹底して依頼主との対話にこだわるものづくりを始めたのである。
 山田さんの活動はそれだけに留まらない。

 鍛冶屋町では既に農鍛冶はは無い。現在は市の指定文化財として保存されている鍛冶小屋で、地元の有志が技術の伝承と普及のために活動するだけとなっている。しかし、山田さんは暮らしてみると、地元の人の心に今なお息づく「鍛冶屋」の存在に気づかされるという。その脈々と受け継がれてきた技術と誇りに触れ「もったいない、なんとかしたい」と心が動かされ、早速、地元の人に混じって農鍛治の技術を学び始めた。余呉で行われた芸術祭では自身の作品を出展する傍ら、鉄に関心を持ってもらおうと1本の釘からペーパーナイフを作るワークショップを開催。今度は地元でもやってみようという話になっている。他にも全国の鍛冶屋を湖北に集めてイベントを開く構想もある。移住者である自分の感覚を活かした活動が、地域の起爆剤になればと思い東奔西走する毎日だそうだ。
 山田さんは移住してまだ100日ほどしか経っていない。この行動力の源は何なのだろう。「これまで鉄を通して表現することが自分の作品になっていましたが、今は人と人とを繋いで動きを起こすことも自分の作品のように思え、とても楽しいんです。そのフィールドが湖北。おもしろい所に出会ってしまいました」と語る山田さんは心から楽しそうで嬉しくなった。
 

鉄工房 樂

滋賀県長浜市内保町2696番
TEL&FAX: 0749-74-2288

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

れん

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