正直である。そして、謙虚である。

　杉原禎さん（27）。ダンサーとして「tadashi」の名前で有名である。実は小学校6年生頃の彼を知っていて、僕は、少しだけその人生の時間を共有したことがある。今、その彼が誇らしく、眩しい存在として目の前にいる。
　「tadashi」さんは、高校に入学し、間もなく退学（多分一ヶ月未満）。京都のダンススクールに通い3年間を過ごした。「何かを表現する人になりたかった」という。同級生が大学へ進学する頃、東京のエイベックスダンススクールに入学。まだ、17歳である。18歳になるまでは彦根から通ったという。東京では独りの出発だった。
　「異性にモテたい」と始めたダンスだったが、バックダンサーとして「あそこに行ってみたい」という気持ちに変わっていた。倖田來未、黒木メイサ、浜崎あゆみ、郷ひろみ、安室奈美恵……、僕でも知っているアーティストのバックダンサーを務め、現在もPV・CM等多数出演、活動中である。「モテたいという気持ちはどうでもよくなりました。少しはありましたけど、実際にモテることはなかったです。ダンスをしている人しか知らないような大会で優勝するよりも、誰でも知っているアーティストのバックで踊ることができるようになることが目標でした」。

　「tadashi」さんは、成りたい自分、自分の描いた未来を実現した人である。「全ては、出会いとタイミングでした。タイミングが合わなければ出会いがあったとしても駄目だったでしょう」。どんなに努力してきたか苦労したかは、ほとんど話さない。そして、常に、正直であり謙虚である。「親からは、謙虚でいるようにと、ずっと言われて来ました。どういうことが謙虚であるということなのか、未だに解りませんが、先輩をたて、スケジュールが入っている時以外は、仕事は断らず、やらせていただきますという気持ちで受けています。自分は表に出たい性格ではないのです」。
　「tadashi」さんは、一ヶ月ほど前、ビバシティ彦根の近くに「grow（グロウ）」ダンス・スタジオをオープンした。東京ではなく、滋賀県で自分のスタジオを持った理由の一つとして「自分がダンスを始めた頃は、白い目で見られ辛い思いをしたから、僕みたいな思いをしなくてすむようになればいいなと思っています。生まれた場所で人を育て、その土台になることができればと思います」。ビックネームのバックダンサーを目指した理由もこの思いがあったからなのだろう。

　「tadashi」さんは現在、東京在住で、毎週月曜日に彦根でレッスンを担当する。「ダンスを学びたい、プロダンサーになりたい人の力になりたいと思っています。本格的なクラスも用意していますが、何より、これからダンスを始めようと思っているけど、まだちょっと壁があるという人にはおすすめだと思います。ダンスの楽しみを知って欲しいです」。
　ダンスは人生の選択枝の一つでしかない。そのことを一番よく知っているのは「tadashi」さんなのである。

【小太郎】