教師として、作家として生きる

志萱州朗さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年12月31日更新

『湖風に吹かれて』志萱州朗

 彦根市立東中学校の美術科教諭の志萱州朗(しがやくにあき)さん57歳は、2014年、10回目の日展入選を果たした。来年3月、日展の「会友」に選出されるだろう。初入選は44歳、遅すぎるデビューだった。60歳までに「会友」になること、それが志萱さんにとって大きな目標だった。2015年は新たな目標へのスタートとなる年でもある。
 「美術の魅力を伝えるためには、自分自身が制作を続けていることが大切だと思っています。制作するからには良い作品を創りたいですし、もっと学びたい。素晴らしい先人のおられるところで学ばせてもらえる場所。それが私にとっての日展です。制作を続ける姿から、言葉では伝わらないところを伝えたい。私は授業で知識や技術を伝えるだけでなく、感動をも伝えたいと考えています。そのためには自分自身が感動していたり魅力を感じていないと駄目なんですね」。それは、淡々と奢りの無い澄んだ闘志を感じる言葉だった。続けること、続けられること、そして教師という立ち場で子ども達に教えることへの感謝があった。
 志萱さんが作品の制作に割ける時間は、土曜の午後から深夜にかけてだけだ。だから入選作『湖風に吹かれて』にはおおよそ10ヶ月を必要とした。実際、忙しさが増す教師という職にあって制作に費やす時間を作るのも難しい。「何度も落選しましたし、時間も限られていますが、創ることが嫌にならないんですね。制作することが芯から好きなんだと思います」。志萱さんは、人間は数千年前から人の姿をつくっている。人間とは一番煩わしいものだけど一番魅力のあるものではないかと、今、思っている。だから粘土で人のカタチを創っているのだと。

 縁あって10年ほど前に、八坂町の琵琶湖岸にアトリエを持って以来、「湖(うみ)」という言葉をタイトルに付けている。『湖風に吹かれて』は、湖から吹く風は、穏やかなそればかりではない。時に荒々しい風に耐えながら、未来をみつめ、意志を持ち歩もうとする強い人の姿を創りたかったという。荒ぶる琵琶湖のイメージは僕にも昔から漠然とあり、共感を覚える。
 「カタチばかりが美しいのではなく、やはりそこには自分の表現したいことがなければ、訴える精神性が必要だと思っています。生きてゆく勇気を与えてくれるものを創りたいです。もう少しすると定年で、今の仕事は終わってしまうわけですが、とにかく、これからも制作することの魅力、美術の魅力を、教育の現場で伝えていけたらと思っています」。
 人生は長くなった。60歳から新しく生き直すことも可能な時代だ。志萱さんは勿論、日展の会員を目指すだろうが、会友を目指した時がそうであったように、それは何か実現したいものの手段であるような気がする。現場を離れるまでにそれは明らかになるだろう。また、その時にお話を聞いてみたいと思っている。荒ぶる琵琶湖が好きなものだから。

改組 新 第1回日展 京都展

京都市美術館  開催中~1月18日(日)
大人1,000円・高大生600円・小中生無料
日本最大規模の総合公募展「日展」の京都巡回展。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

風伯

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