山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り 『古橋のバイ(栢)』 其の二

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2018年7月31日更新


バイもり籠


バイ洗い籠

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(91)和子さん(90)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。「愛おしいもの・コト・昔語り」は、私が聞いた中でもこれはと思った、或いは伝えておきたい山内さんの記憶である。
 前回、古橋ではカヤ科の植物・バイの実を搾油用の「油バイ」として出荷、昭和初期まで貴重な現金収入を得ていたと書いた。昭和8年を最後に古橋での「油バイ」の入札は行われなくなったが、食用の「カヤバイ」にするための採取は続いていた。
 喜平さんによると、バイの実の採取時期は9月15日~25日ごろで、油バイ用を先に採取、やや遅れてカヤバイ用を採取する。遅れると外皮がはじけ、実が落ちてしまったり、熊に食べられてしまうのだとか。カヤバイは各家で1斗ほど作られていて、味噌を仕込む際に大豆と交換したり、かき餅に搗きいれたり、炒ってそのまま食べたりしたそうだ。
 「ここへ嫁いで初めて山へバイもりに行きましたが、急な斜面で、それはもう大変な作業でした」と和子さんが思い出を話してくれる。〝バイもり〟? 喜平さんは「バイを採取することを〝もる〟と言います。野菜や果物はちぎるとか、もぎとるとか言いますが、バイはもるなんです。桑ももると言いますが、桑もバイも大切な植物なので、もるは尊敬語なんやと思いますよ」と解説して下さる。そうして、「バイの採取に使う籠は〝バイもり籠〟や」とも。
 カヤバイの製法は、収穫後、畑に掘った穴に入れ筵などで覆い、時々水をかけ外皮が腐るまで30日ほど置いておく。充分に外皮が腐ったら〝バイ洗い籠〟にいれ、河原に運んで浅瀬でかき混ぜたり、足で踏んだりして外皮を取り除き実だけにする。その後桶に入れ、木灰を混ぜて水に浸し、2日~5日置き、またバイ洗い籠に入れ、浅瀬でアク汁を落とし、水切り後、筵などに広げて天日干しを10日~15日行い、ガラガラと音がするようになったら快晴の日に10時間ほど仕上げ干しをする。炒って食べるが、昔は煮物などの残り火を利用して土フド(かまど)で鋳物製の炒り鍋を使ったそうだ。現在はフライパンなどを使うが、焦がさないようにかき混ぜながら30分ほどかかり、これもなかなかの手間いりだ。前回、喜平さんちで頂いたのは「カヤの実」だったと書いたが、製法は同じだ。バイは昭和30年代中ごろから収穫量が減ったそうで、その一番の理由は当時奨められていた杉やヒノキの植林が行われたためだ。バイは日当たりのよい斜面に育ち、草や雑木が繁ると弱ってしまう。かつては7月下旬から8月下旬にバイ山の手入れが行われ、喜平さんは「大切な作業だった」と振り返る。特につる性植物は残さず刈り取らねばならなかったそうで、その頃のバイ山はきっと美しかったのだろうと想像がつく。手を掛ければ、必ず恵みがかえってくる。そのように人は山や自然とかかわっていた。喜平さんは「古橋のバイ(栢)」と題した小冊子を書いた動機を「大切なバイが忘れ去られようとしているから」と言われたが、惜しむのは人と自然との営みに違いない。
 喜平さんは、バイもり籠とバイ洗い籠を見せてくれた。お手製のバイ洗い籠はシノベ竹をまっすぐに伸ばしてシュロ縄で編まれている。竹の太さもほぼ均一で、貴重面な喜平さんらしい作りだ。「まっすぐに伸ばすのも技があるんや」。喜平さんは楽しそうな笑顔になった。

光流

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