木の生き方に背かない

工房「木の家具 智」平尾智子さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2011年12月14日更新

平尾智子さん

 約束したその日、平尾智子さん(41)は近江八幡の山から帰ってきたばかりだった。木を伐る専門の人による、伐採現場に同行してきたのだ。ごろごろと楠が軽トラックの荷台に転がっていた。
 平尾さんは椅子やテーブル、棚など「木の命を繋ぐ」家具を作る人である。動物などをモチーフに木工彫刻をも手がけている。
 高校で美術の講師をしていた……。宮大工の棟梁に弟子入りし、木と関わるようになった。独立して工房をもって、10年が過ぎる。
 「学生時代に油絵を専攻していました。生徒に指導する立場になり、表現すること、そしてそれを指導することについて壁にぶつかりました。そんな頃、宮大工の棟梁と出会いました。自己の表現方法を求めるのではなく、自己を封じ、技術を体得しながら継承する生き方がそこにはありました。ここから世界がどう見えるのか知りたくなったんです」。

 木を長く生かすため知恵と技術を継承しているのが宮大工である。平尾さんは、木の力を引き出す……、そのために木とそして道具と向き合う姿勢を何よりも多く学んだという。「木が育ってきた環境や条件が、ねじれる方向などの木の動きを決めます。伐採しても無垢の木は生き続けるから、どんな風に生きてきてどうなりたいかを木を扱う人間は知っていないと駄目なんですね」。オーダーメイドだから、こんな木でこんな形にしたいというお客さんの希望はある。あとは「木がどうなりたがっているか」を見極めれば、家具は完成する。平尾さんの家具は、主に国内産の無垢の木を使っているから、質感や風合いが生きた家具が多い。木を組み合わせるときに釘やビスでつなぎとめることはしない。木の動きが阻害され、木が自由に動けなくなるからだという。
 「100年生きた木は、家具として150年の命をまっとうできるはずなんです。木の生涯の一部分を預らせてもい、私よりも長生きするのだから、私が死んだあとこの木がどうなっているのか、先を見越して木を扱う必要があります。そのためには、木をしばりつけてはいけない……。私は、お客さんと木の間に立つだけでいいんです」。
 一言で表して良いのだとしたら「木の生き方に背かない」家具であるように思う。

工房 木の家具 智

滋賀県東近江市市辺町904 / TEL: 090-8215-6228
お問い合わせ時間 9:00頃〜18:00頃まで

工房見学可(要問合せ)
オーダー家具は木材(材料費)+制作費で、材料などによって値段が変わる。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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