おかもちと特許「防雨ルーバー」

吉井知幸さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2010年12月20日更新

吉井知幸さん

 自らの発明で特許をとった人がいる。吉井知幸さん(64)。先日取材した「茂美志屋支店」でお会いした。お店の出前を担当されている。おかもちを積んだバイクが吉井さんのトレードマークだ。
 発明といえばエジソンにドクター中松、特許といえば早口言葉くらいしか思いつかない私にとって、未知の世界に住む人だった。
 吉井さんの考案には「防雨ルーバー」という名前がついている。簡単にいうと窓に取り付ける通気装置だ。試作品を見せていただくと、学校などにある百葉箱の側面のような形をしている。
 「例えば夏の暑い日に外出するとき、窓を開けたままでは無用心ですから閉め切っていきますよね。そうすると室内は蒸し風呂状態になってしまいます。ルーバーを設置することで風が通るようになります。一番のポイントは雨の心配がいらないことです」。

「防雨ルーバー」図面

 雨がルーバーのひさしから屋内に入って来ないようにひさしの角度や長さを工夫し、思いついたのが緩衝材の使用だった。緩衝材には立毛部材を使っているのだが、特許庁が確認する限り今までにない防雨機能の考案だという。またルーバーから室内は見えないため、風呂場やトイレにも有効利用できる。

 吉井さんは、今はあまり使わなくなった言葉だが、苦労人だ。
幼い頃家族と死別し、何人かの育ての親に養育され、中学を卒業してからは、茂美志屋支店で配達の仕事をしてきた。30歳から写真を撮り始め、数々の賞を獲得していたが、奥さんの美榮子さんの病気が悪化し、写真を止め、介護に専念しなくてはならなかった。その中で「防雨ルーバー」の閃きを得たそうだ…。

奥さんの美榮子さんと

 「物理やら数学やら、そんな専門的な知識は全くないんですよ」。特許は容易にとれるものではない。類似品がないかの調査を経て申請し、審査を経て許可がおりる。証書が届くまでに2年以上を費やしたそうだ。
 「特許貧乏ですよ。それでも製品化を期待する気持ちはそれほどないんです。人間やろうと思えば、どんな状況でも、年齢も関係が無い。不可能はないのだということの証になれば十分です。何より妻の存在があったからこそできたことでもあります」。
 吉井さんのひいおじいさんは長浜で湖東焼きを始めた方。おじいさんやお父さんは能楽師で、長浜に能を普及させたそうだ。同じ血が受け継がれているのだ……、新たな発明、もしくはまったく違う何かに再び吉井さんは挑まれるのではないだろうか。
 まちなかを、おかもちを積んだバイクで走り去る吉井さんである。その姿に、「今日は何かあるのだろうな」と感じることができるのは美榮子さんだけなのだと思う。

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