ハンダ付けに光を!
ノセ精機 野瀬昌治さん
その人からいただいた名刺は一風変わっていた。「はんだつけに光を!」と手書きされたその文字からは何か熱いものが伝わってくる。自らを「はんだつけ職人」と名乗る野瀬昌治さんの名刺である。
東近江市で「ノセ精機」を営む野瀬さんは、ハンダ付けのノウハウをHPやDVD、書籍などで紹介している。ハンダ付けというと、私の場合、中学校の技術の授業で試みた程度だ。ハンダコテをあて続け、糸状のハンダがどんどん溶けていったのを覚えている。
「鈴と鉛の合金であるハンダは、天ぷらを揚げる温度とほぼ同じの183℃で熔解するので、電子部品の耐熱温度以下で接合できるんです。だから電気製品には必ずハンダ付けがされています。けれどもその技術は当たり前すぎて教えてもらうものではなかったんです。大工さんがのこぎりの使い方をわざわざ教えてもらわないように」と野瀬さんは説明する。
電気製品の、のちのちの不良原因の多くがハンダ付けにあることを、野瀬さんは常日頃感じていた。ハンダは多く溶かせば良いものでもないし、コテの熱の逃し方にも気を使う。「感覚的に作業していたハンダ付けを理論から学ぶ必要がある」と考え、その技術を公開し始めた。「ハンダ付けをやっている企業なら、どこでも技術には自信はあると思います。私はハンダ付け職人と名乗っていますが、みんな職人なんです。技術の公開もうちがたまたましたというだけで、人と違うことがしたいんでしょうねえ」と野瀬さんは笑う。
違うことがしたいエピソードは趣味のメバル釣りにもある。メバルは夜の凪に釣るものだそうなのだが、昼間に挑み、HPなどで紹介している。趣味は釣りだけにとどまらず、空手、剣道、スキーなどと多岐に渡り、どれもちょっと人とは違う方向で道を究めようとする凝り性でもある。書くのも好きだから、それらのことも書いて公開する。「自分のやっていることを人に見てもらうのは、モチベーションのアップにつながります。例えば、質問があった場合、回答するために勉強し、さらにそれを発信していくことで、出したものが大きくなって自分のもとに返ってくるんです」。
HPで発信されたハンダ付けの技術を見て、企業はもちろん、個人のお客さんからの依頼が増えた。パソコンの故障、車のライトの色の変更……。技術を公開しているから、自分でやってみる人もいる。「ぜひやってください。失敗したとき、うちに依頼してくれたらいい」。
ハンダ付けによりいっそうの光をあてるため、現在野瀬さんが構想しているのが「はんだ検定」だ。NPO法人を立ち上げて、全国規模で検定を開催したいという。
最後に野瀬さんに聞いてみた。「私でもハンダ付けの技術は習得できるでしょうか」。野瀬さんはにっこり微笑んでくれた。私のなかのハンダ付けの可能性について想像してみる。大丈夫、失敗したら野瀬さんに依頼すればいいのだから。
株式会社 ノセ精機
滋賀県東近江市大萩町271 / TEL: 0749-46-0456
書籍
『目で見てわかるはんだ付け作業』日刊工業新聞社(2009/09)
『はんだ付け職人のハンダ付け講座』ブイツーソリューション(2007/8/25)
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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