湖北の書画家
清水達也さん
書画骨董を収集する人にとっては、目当ての品を探し出して手に入れることがやはり一番の楽しみらしい。探すこと、手に入れることは、その後飾ったり用いたりすることよりも大きな喜びなのだという。
長浜で表具の仕事をする清水達也さんの場合は、そうした数寄者とは少し違う。まず、興味の対象は地元湖北に所縁のある書画家に限られている。「絵の出来がよいとか、表具がどうなっているかということよりも、間違いなく地元の人かどうかということがまず気になるんです」という清水さんは、中川耕斎など、この辺りでは知られている書画家の作品だけでなく、今や無名になっており、見向きもされない書画家の作品も求める。わずかな手がかりを頼りに、そうした書画家の作品を見つけた時や、「何かにおうな」と手に入れたものがやはり地元の人の作品だと分かった時は、「もう、やった!という感じですね」。こうしたことを重ねていくと不思議にものがものを呼び、巡り合わせのように発見することもあるという。
表具屋の2代目である清水さんがこの仕事に専念するようになったのは8年ほど前。それまではサラリーマンとして働く傍ら、主に襖の貼り替えなどをする家業を手伝っていたという。20代頃、お父さんの仕事場に積まれた紙の山の中に、明治時代の地元の作家の葉書をたまたま見つけた。お父さんは掛け軸の仕事は手掛けなかったが、清水さんは独学で掛け軸の勉強を始めた。そうしているうちに、書画家に興味が深まっていったという。
今月上旬まで、清水さんの元に集まった作品で「湖北の書画家30人展」が開催されていた。書画そのものよりも、書画家について知ってもらうことを重視した展示にしたかったという。「古いし誰が描いたのかわからないしと、捨てたり燃やしたりしてしまう方も多いんですよ。『うちにある屏風を描いた人かな』と気づいて、残そうと思ってもらえればいいなと思います。ぼろぼろになっていても、洗いをかけたり、表装し直すこともできますし」。会場には「めくり」といわれる表装されていない書画もあった。表装されていないばかりに日の目を見てこなかった作品、たまたま本に載らなかったばかりに忘れられてきた書画家、そうしたものに焦点を当てる試みだった。
書画に携わり、書画を長く美しく残すための表装の仕事をする清水さんは、こうした日本の文化を維持していくことの難しさを特に感じている。博物館や美術館の学芸員と、骨董商は、どちらも近い分野で仕事をしながらもがまじわる機会は少なく、もし交流があれば、もっと新しい発見に繋がるのだろうな、と思うこともある。また、家にある「お宝」を博物館に預けたいという人は多いと聞くが、博物館の限られた展示機会で、日の目を見ることができる作品は少ないと聞く。このままでは日本に何が残るんだろうという漠然とした不安や、自分に何ができるだろうという気持ちがあるという。
それでも、先の展示会に足を運んでくれた方のように、書画に興味を持つ人は多い。「一緒に勉強していけるひとを増やしていけたら、楽しいばかりやな、と思いますね」目当ての品を探すこと、手に入れることの先の楽しみを、清水さんは思っている。
清水表具店
滋賀県長浜市高田町15-10
TEL: 0749-62-2333
掛け軸や屏風の修繕などについてのご相談、承ります。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
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