オコナイの季節 2
「オコナイ」とは、村内の豊作と安全を祈願し、一月から三月にかけて繰り広げられる神事のことだ。基本的には、御鏡をつくり神仏に供え、直会があり、次の年のトウヤ(頭屋・当屋・塔屋/「屋」を「家」とする場合もある)を決める。丁度今頃がオコナイの季節だ。
木之本町北布施のオコナイを見学させていただく幸運に巡りあわせた。神事を間近で見る機会はほとんどないが、人知の及ばぬ力が働くのだろう多くの巡り合わせが重なり願いは叶った。今までにいくつかのオコナイに居合わすことがあったが、その中心にあるのは「米なのだ(餅なのだと言い換えてもいい)」と改めて思った。
2月15日土曜日。藁仕事の最中だった。伊香具坂神社の注連縄やエビと呼ばれる神具を藁で綯(な)いでいく。綯うというのは、より合わせると編むを一緒にしたような作業だ。とにかく多くの藁を使う。おおよそ100束。そしてその藁は、わざわざ背の高い餅米を育て手で刈り取り、天日に干したものを使う。北布施だけなく、オコナイはそういう特別な藁を必要とする。
決められた長さ、決められたカタチに男たちが黙々と藁を綯う。部屋には女たちは入ることができない。餅を搗く段になると見ることも許されない。これもまた決まり事である。
玄関の土間に藁を敷き詰め、その上に、棒搗き用の臼と杵搗き用の臼が置かれる。蒸し上がった餅米が湯気の中から現れ、鏡餅と餅花づくりが始まる。北布施では木の枝に餅を付けて飾る餅花を「まい玉」、或いは「まえ玉」と呼ぶ。
土間に敷く藁は、土間のコンクリートに直接衝撃が及ばないように緩衝材として敷くのだという。かつてコンクリートが無かった時代にも藁を敷いたのかどうかは判らないが、ゴムや板という素材ではなく藁を緩衝材として使うところがオコナイらしいと思った。
翌16日は、物心両面から集落の代表として神仏に奉仕するトウヤ渡しの儀式が行われた。わざわざ籾をとった後の穂を束ねたもので四角いくじを神主がすくいとり、扇子で受ける。穂に紙が吸い付くように持ち上がるのも神の仕業、そして所作が美しい。北布施では翌々年のトウヤを決める儀式で、くじを広げた時、穴が空いているものが当たりである。今年は一番くじが当たりだった。
『オコナイ 湖国・祭りのかたち』(INAX BOOKLET 2008)に、こんなことが書いてある。「人々は御鏡の一片を口にすることにより、村の永続を感謝するとともに、生命力の充実を願いつつ、来るべき春の重労働に備えたのである」。稲を使いきり、餅を搗き、稲の豊穣を祈る。今はもう思い出せないが、かつての神様との約束が
今も続いている。
参考
トウヤの二宮邦剛様はじめ北布施の皆様に心より感謝いたします。ありがとうございました。
【小太郎】