留学生の演じる冨田人形

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2013年7月28日更新

 昼下がり、長浜市富田町の「冨田(とんだ)人形会館」を訪ねた。玄関にはずらりと靴が並んでいて、田んぼからの風が吹き込む畳敷きの広い部屋では、留学生たちが気持ちよさそうに昼寝をしていた。彼らはこの夏、人形浄瑠璃「冨田人形」を学びにアメリカやイギリスからやってきた大学生たちなのだ。
 冨田人形は約180年の歴史を持つ県選択無形民俗文化財である。起源は天保6年、阿波の人形芝居一座がこの地を訪れたものの雪で興行が出来ず、帰りの旅費を工面するために人形を担保に置いて行き、その後引き取りに来なかったため村の人たちがその人形を使い稽古を始めたのだといわれている。以来村の人たちは本格的に人形座として体勢を整え、「吉田座」の名前で近隣の寺社や祭礼での公演活動をするようになり、郷土の誇る民俗芸能として伝承してきた。しかし、技術の父子相承という形は次第に難しくなり伝統が途絶えかかったため、昭和54年に地元の人たちが中心となって「冨田人形共遊団」を改めて立ち上げた。現在は団長の阿部秀彦さん(72)を中心に女性や地域外の人を含めた20数名で日々練習を行い、年2回の定期公演の他、国内外での出前公演や地元の小学校での指導、そして海外からの留学生への指導を行っている。
 この留学生の受け入れは、海外公演での現地学生との出会いがきっかけとなり平成9年からほぼ毎年、夏に行っている。今年も6月から2ヶ月の間、19歳から29歳までの男女10名が、7月28日湖北文化ホールで行われる団の定期公演でのお披露目に向け、日々稽古に励んできた。
 演目はこの地域のおめでたい席には欠かせない「式三番叟~鈴の段~」。15分近くある演目を、人形を動かす人形遣いの他、太夫や三味線、口上といったすべての役割を彼らだけで演じる。富田に来て初めて人形浄瑠璃や三味線を知ったという学生もいて、指導にあたる阿部さんも「彼らのイメージする操り人形といえば、1人で1体を操るマリオネット。でも人形浄瑠璃は3人で息を合わせて1体を動かさなければならないので、個人主義文化で育った彼らにとってはそこが一番難しいようです」と語る。しかし「議論をしながら熱心に学んでくれています。人形浄瑠璃に関しては日本の若者よりも詳しいかもしれません」と感心する。
 この留学の特徴は、彼らの留学先が学校ではなく富田の集落であることだと思う。留学中のお世話も阿部さんを始め団員や地域の人たち自らが行っている。5つの家庭がホームステイ先となり、稽古の合間には祇園祭や長浜のゆかたまつり、温泉などへ案内し、習字や陶芸、そば打ちなどを地元の人がボランティアで教えるそうだ。何より驚いたのはここの集落の世帯数が21戸だということ。きっと留学生たちにとって、冨田人形という日本の伝統文化に触れたことだけでなく、この小さくてパワフルな集落で過ごした時間そのものが何よりもの財産になるのではないだろうか。
 ぜひ公演で、団による「東海道中膝栗毛」など3演目と共に、彼らの勇姿を観てほしい。

冨田人形 定期公演 —2013年・夏公演—

日時 2013年7月28日(日)14:00〜
場所 湖北文化ホール(長浜市湖北町速水2754)
入場料 一般1,200円 高校生以下無料

お問い合わせ
公共財団法人長浜文化スポーツ振興事業団
TEL: 0749-63-7400

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

れん

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