永源寺 晋山式

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2013年6月14日更新

 山の美しい緑に包まれた永源寺(東近江市永源寺高野町)で6月2日晋山式が行われた。晋山式とは、寺に新たな住職が就任する際の儀式である。寺には山号があり、その山に晋(すす)むという意味があるそうだ。この日は、道前慈明(どうまえじみょう)老大師(71)が、臨済宗永源寺派大本山・永源寺第144世(住職)に就任したことを披露する晋山式である。老大師の室号は「槐安窟(かいあんくつ)」。室号は僧侶の雅号のようなものだという。
 「槐安」とは?調べてみると、唐の李公佐(りこうさ)の小説『南柯記(なんかき)』に描かれた国の名前だった。小説の主人公が、ある日酒に酔って槐(えんじゆ)の木の下の穴に迎えられて、夢に遊び栄華を極めた国だが、夢から醒めた主人公が、庭の槐の木の穴をのぞくと、そこは実は蟻の国だったという。槐安窟は槐安国そのものをいうのだろう……。
 槐安窟と号す老大師は、京大理学部の大学院卒、建仁寺派福成寺住職だった方である。槐安窟の号には「この世間の一切は、夢の中のごとく……」などとは異なり僕らには及ばない深淵な意味があるに違いない。
 ところで、僕は永源寺山門の辺りで写真を撮っていた。晋山式を写しているつもりをしていたが実は、法堂と開山堂での儀式が晋山式だという。僕は、晋山式に向かわれる槐安窟慈明老大師の行列を撮っていたのである。間近でシャッターを切りながら、僕はこんなに近づいていいものかと思っていたが、そうと判って納得した。そう易々と近づけるはずはないのである。
 「臨済宗各派の管長や高僧、檀信徒ら約600人が参列。道前管長は法堂で、僧侶らを前に就任の決意を示した「法語」を読み上げ、焼香するなどした」(読売新聞 2013.6.5)。本当の晋山式を僕は経験することはなかったが、科学と禅の融合を感じてみたかった。融合ではなく槐安窟という老大師の裡に同居する禅と科学かもしれない。
 ともあれ、僕は緑の美しい永源寺でこの祝いの行列をカメラに納めた。夢ではないはずなのだが、槐安国を知ってからは、夢ではないはずの現実は夢であり、更にその夢も夢でありと、なかなか厄介な夢の中にいて、夢でいいじゃないかと思っている次第。まだまだである。

 

雲行

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