ケヤキの老木と朱雀池

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2013年5月20日更新

 十年以上昔、余呉町の菅山寺は大好きな場所で、年に何度か訪れ、ケヤキの老木に惚れ惚れし、朱雀池に魅せられ軽々と山のなかで遊んでいた。久しぶりに朱雀池が見たいと思った。
 案内の表示も新しく山の中は随分整備されて様子は記憶とは少し違っていた。空は青く緑の芽生え始めた山には春がまだ同居し、温かい日差しが嬉しかった。木々の緑を映す神秘の池は直ぐ近くにあるはずだった。「菅山寺」の方向を示す道標があった。
 その時だ、道は二手に分かれていた。道標通り進むよりは、もう一方の山道を進む方が朱雀池には早く着くように思った。小一時間……、結局、引き返し道標通りの道を歩く。
 記憶に頼るのは間違いである。頑固はそういうところから発するものなのだろう。スリザーリンクというパズルがあるが、根拠の無いところにラインを引いたとしても良い結果が得られないのと同じだ。

 ただ、引き返すことにはなったが、遙か遠く雑木の向こう側に光る余呉湖があり、この道でたどり着くことの期待は自分への自信の根拠だった。言い訳ではないが、引き返さず進めば、必ず朱雀の池へたどり着いたはずである。今でもそう思っている。
 ケヤキの老木は昔のままにあった。本堂の大きな提灯は無くなり、訪れる人が少なくなったせいだろうか、乾いた感じが漂っていた。十年…、僕は般若心経を諳んじることができるようになっていた。
 「春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて すずしかりけり」。道元禅師の歌だが、あるがままに美しい……、菅山寺は許せば幾度でも訪れたいそういうところである。また来ようと思った。勿論、離れ難い美しさの朱雀の池にもたどり着いたさ。
 

小太郎

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