打ではなく、投ではなく、極ではなく……
総合格闘技道場 ハーヴェスト
総合格闘技のプロが昨年の末、米原市に道場を開いた。道場の主は米原市出身の中村潤さん(28)。中村さんが格闘技に出会ったのは中学2年生の時。闘魂三銃士の一人として人気を博したプロレスラーの橋本真也選手に憧れたのがきっかけだったという。
2009年に総合格闘技「修斗(一般社団法人 日本修斗協会)」のプロライセンスを取得し、以降「中村潤レクイエム」というリングネームで6戦全勝という成績を修めている。「修斗」とは「斗いを修める(たたかいをおさめる)」という意味だ。
中央の看板を持っている人が中村潤さん。163センチという小柄な体格であることや台本の無い真剣勝負がしたいという思いからプロレスの道を選ばず、スポーツインストラクターの専門学校に通う傍らロシアの格闘技サンボの道場に入門。その後、寝技や組技が中心のブラジリアン柔術を学び「力が無くてもやり方によっては身体の大きい相手を倒すことが出来て面白くなった」という。根っからの負けず嫌いの性格。ブラジリアン柔術を学んでいる頃、遊びで出た総合格闘技の試合に負けたことで火がついた。独学で練習しアマチュア大会に出場。左頚椎損傷という大怪我で引退を覚悟したが、リハビリをして復活し全日本の大会で優勝した。
教室は米原市日光寺の集落内にあり、日曜日を除いて毎晩開かれている。総合格闘技の他にもボクシング・キックボクシングやブラジリアン柔術なども指導しており、現在は小学生の女の子から40代の男性までの20名ほどが学校や仕事帰りに汗を流しにやって来る。通う目的はプロを目指すという人から体力づくりという人まで様々だ。
「格闘技は相手を壊し合う競技というイメージがありますが、ケンカと違い試合後にお互いを讃え合うことが出来ます。そして、まずはやってて楽しいと思って欲しい」と中村さんは話す。
この日も夜8時過ぎになると賑やかな声とともに子どもたちがやってきた。道場にやってきて皆が最初にすることが握手。中村さんと、そして道場の仲間全員と握手を交わす。
この最初の握手は中村さんがブラジリアン柔術を学んでいた時に教わったのだそうだ。
礼に始まり礼に終わる を理念とする「修斗」にもつながっている。ウェブサイトに理念が記されていた。『「打て」という 打 ではなく、「投げろ」という 投 ではなく、「極めろ」という 極 ではない。また単に打・投・極を総合的に闘えばいいというものでもない。自然の流れにのった技術がとぎれなく連係し、なめらかに回転することが修斗の姿である。そして闘いを修めていく修斗の思想が、競技者を人格的に正しく導く。それこそが修斗の理念である。礼に始まり、礼に終わる。礼の姿勢こそ修斗の基本姿勢であり、自然に礼を発せられることが、修斗体得への第一歩である。』
「修斗」もまた「道」である。意識することなく理念を具現し、ルールを受け入れ遵守し、その先にある何かを求道する。 格闘技の道場と聞いてイメージしていた殺伐とした雰囲気とは全く異なり、私の裡の格闘技イメージが一変した。
練習が始まればもちろん緊迫した空気が流れる。「指導をしているというよりは、一緒に練習をしている感じです」という中村さんの言葉どおり、一人一人と実際にスパーリングをしながら言葉よりも身体の動きで指導を行っているようであった。
中村さんは、物腰の柔らかい話し方で「おばけが嫌いで…」と言う人である。けれども試合について聞くと「相手を研究して相手に合わせた試合をするより、自分らしい動きをして負けたらそこまで。毎回これが最後だと思って妥協しないようにしています」。あえて格闘技人口の少ない滋賀、そして米原で道場を開くことについても「都会の整えられた環境でなくても、やり方によっては勝てることを証明してみたいのです。だから自分で環境を作っていきたいと思っています」と語る。勝負の世界で戦い続ける中村さんの思いが米原から大きく広がることを願っている。
総合格闘技道場 ハーヴェスト
滋賀県米原市日光寺 / TEL: 080-5334-3234
練習日 毎週月~土曜日(参加自由)19:30~23:00
ブラジリアン柔術・グラップリング・ボクシング・キックボクシング・総合格闘技
レギュラー会員(入会金10,000円、月謝 5,000円)
女性・キッズ会員(入会金5,000円、月謝2,500円)
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【れん】