火の用心を呼びかける独特の響き
夜回りの錫杖

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 木之本町 2011年9月26日更新

木之本の夜回り

 私が住んでいる町内では、数週間に1度夜回り当番が回ってくる。拍子木を打ち、担当エリアを巡回する。隣町では拍子木の代わりにドンドンと太鼓が鳴る。太鼓も新鮮だったが、木之本町木之本では拍子木と共に錫杖を使う。錫杖に付けた紐を持ち、引きずって歩くのだ。
 錫杖は、僧侶が仏道修行のために持つ道具の1つで、遊行の際の魔よけと托鉢の来訪を告げる役割がある。揺すったり地面を突いたりすると、錫杖の頭部に付いている遊鐶が音を出す。
 木之本は日本三大地蔵尊で知られる浄信寺があるまちである。夜回りに錫杖を使うのは、やはりお地蔵さんと関係あるのだろうか? 錫杖を使うこともだが、引きずるというのも独特だ。区の自治会の方などに尋ねてみた。夜回りそのものの始まりも定かではないそうだが、歴代区長のおひとりがこんな推測をしてくださった。

夜回りのときに引きずる錫杖

 「現在の木之本区一帯は約260年前、大火事に2度見舞われ、多大な被害があった。当時の浄信寺の住職の夢枕に神様が立ち、秋葉様を祀るようにお告げがあった。そこで火伏せ、火除けの秋葉大権現の起源である静岡の秋葉神社へ参り、分霊を受け寺の境内にお堂を建てた。その後しばらく大火に見舞われずにいたが、明治40年に約40軒を焼く火事が起きた。当時の木之本区の戸数は約400軒。1割が焼失した。これを機に夜回りが始まったのではないかと考えられる。明治に入り市町村制や区長制などが確立され、スムーズに組織づくりができたのだろう。錫杖は、住民の心のよりどころでもある浄信寺のお地蔵さんにちなみ、あらたかな気持ちで防火に取り組むように、との思いが込められたのではないだろうか……」。

 夜回りに同行させていただいた。区は3つの組に分かれていて、組ごとの当番が自分の組を回る。拍子木を持つ人、錫杖を持つ人、2〜3人で組み、当番はまず自治会館まで来てサインをする。錫杖は鉄製のようだが、毎晩引きずれば磨り減っていく。かなり短くなった錫杖もあった。10数年に一度は溶接で継ぎ足し使い続けているという。
 じゃらららと、錫杖を引きずる音はよく響く。「当初は本来の使い方のように地面を突いていたが、労力がいるためにいつしか引きずるようになった」、「音がよく響くゆえに引きずるようになった」……。区のみなさんはそれぞれに推測してくださった。 
 拍子木と錫杖の音が重なる……。お地蔵さんのまちゆえの、ここにしかない夜回りの響きである。

*木之本区の多くの方に快くご協力いただきました。ありがとうございました。

 

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