七夕
七夕の朝、雨が降っていた。天の川を隔てて輝く、わし座のアルタイルを牽牛星(彦星)、こと座べガが織女星(織姫)、一年に一度だけ逢うことを許された夜である。世界の何処かで、晴れている事を願った。
七夕伝説には様々なバリエーションがあるが、実は、天の川での逢瀬が年に一度叶うロマンチックな話でもない。働き者の二人は結婚し、楽しい新婚生活にうつつをぬかし、天帝の怒りをかい、罰として、天の川の両岸に引き離された。引き離せば働くかと思えば、今度は泣き暮らすばかりで、仕方なく年に一度の逢瀬が許された。
生きてゆくために必至で働かなくてならなかった時代、人々は自分の境遇を、勤勉に働き年に一度の逢瀬を待つ牽牛と織女に重ねたのだろう。あの夜空に瞬く星々の中から、牽牛と織女を思い描くことができるほどに。
勤勉に働けば、思い続ければ願いは叶う時代があった。
さて……、仕事ばかりしてはおれぬ時代である。世界の何処かは、晴れている。また、一年のスタートだ。
【小太郎】