年貢を納める
彦根市南三ッ谷町 常光寺
常光寺の梵鐘は「暁、夕べ、声を発して、十方に至る」といわれ、一里四方に響き長夜の夢を破る名鐘だった。昭和18年、太平洋戦争のため供出、帰らぬものとなった。写真は梵鐘供出当日に撮られたもの(常光寺蔵)。現在の梵鐘は檀家の均等喜捨と信徒・縁者の寄付により鋳造された3代目となる。
2010年12月19日は延命山常光寺の、まさに年貢納めの日だった。常光寺檀家1世帯8升と決められている(現金で納めてもよい)。檀家の方々が三々五々米を寺に持参する。昔からの決め事がカタチとして受け継がれ今も続いている。
年貢は本来、領主が民衆に課する租税で、米で納めるものを年貢米といった。勿論、常光寺のそれは租税ではない。納められた年貢は、常光寺ご住職の家族の一年間の米となる。一年に一度、住職に貢ぐ米、寺と檀家の繋がりの強い、信仰心厚い人々の暮らす集落なのである。
2011年3月13日には、『元祖法然上人八百年大遠忌法要』が行われる。実行委員長の田附源太郎さんは、法要を営むだけでなく記憶を記録に残そうと記念冊子発行を計画している。今のカタチと心を未来に繋ぐ作業をしようというのだ。
しかし、記録だけでは受け継ぐことができないものがある。そのひとつが常光寺の「鐘講」だ。「鐘講さん」と呼ばれる人々が双盤念仏を吟じる。誰でも鐘講になれるわけではなく独特のものらしい。双盤念仏は寺により節回しも異なり相伝に近いものだろう。
双盤念仏は、毎年8月下旬に行われる「萬人講」法要で奉称されることになっている。近在の浄土寺寺院で「萬人講」法要を勤めるところは無いという。「萬人講」は先祖や両親など有縁の諸精霊だけでなく、飼い猫、飼い犬、鳩や鶏も回向する。寛政8年(1796)に始まって以来、今も同じように行われており、この地の人々の信仰心の厚さを物語っている。興味深いのは、過去帳記帳、先祖代々の回向を、供米一升でお願いできるところだ。年貢米と同じく米が基本になってる。
大晦日……、常光寺では、午後9時から法要が始まる。午後10時までは誰でも自由に鐘を撞くことができる。その後、除夜の鐘はご住職と鐘講さんが数を繰って撞くことになっている。
除夜の鐘は何故108なのか……。
常光寺の『勤行・和讃集』に、次のように記されていた。
六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)人間の体全体の働きを表す×好・悪・平の三種(良い・悪い・どちらでもない)=18
六塵(色・声・香・味・触・法)人身に入って本来清らかな心をけがす×苦・楽・捨の三受(苦しい・楽しい・どちらでもない)=18
18+18=36×三世(過去・現在・未来)=108
ご住職上田孝俊さんは『いつも人は四苦八苦しているから』ともいう。四苦(4×9=36)・八苦(8×9=72)・36+72=108。なるほど、108の不思議な符号……。
除夜は、四苦八苦、年貢の納め時なのである。
取材協力
常光寺住職 上田孝俊さん / 元祖法然上人八百年大遠忌法要実行委員長 田附源太郎さん
参考
『延命山常光寺 勤行・和讃集』 常光寺住職 上田孝俊編集(2003)
元祖法然上人八百年大遠忌法要
2011年3月13日(日)
■開白法要・結縁回向 9:30〜10:45
■練供養・庭儀式 13:00〜14:00
■本堂式 14:30〜15:20
・元祖法然上人八百年大遠忌法要
・お稚児さんの代表による、献灯・献香・献華
・婦人会の皆さんによる詠唱奉納
・鐘講の皆さんによる双盤念仏
■ご法話 15:20〜16:10
・総本山知恩院布教師
大阪 法善寺ご住職 神田眞晃上人「元祖様の御教え〜暮らしの中にお念仏を」
■法然上人ご分身お見送り
浄土宗 延命山常光寺
滋賀県彦根市南三ツ谷町1870
TEL: 0749-43-3747
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【風伯】