人形の可能性 全てが無く、全てが存在する世界。
人形は話さない。からくり人形は別にして人形は動かない。命も無いはずなのだが、人形は語りかけ、見つめ、笑い、そして悲しみをたたえているように見える。姿を映しカタチを与えられたが故だろうか……。あまり深くは考えたことのない世界がある。
人形の制作30年という國門登美恵さんにお会いした。請われて夢京橋あかり館で作品展をするという。「日々の子育てに追われていた頃、心の片隅に追いやっていたひとつの願いがありました。気がつくと、もの作りの好きな私は、いつしか人形のもつ優しいまなざしが人の心をなごませてくれる魅力に惹かれていたのです」。 人形制作には、カタチを造る、着物を縫う、お顔を描くなど手の仕事の要素が全て存在する。日本の伝統的技法で、ひとつの人形にああでもないこうでもないと、手間と暇をかけ少なくとも約半年……人形は魂を得る。
「何もないところからだんだんと形になり、思いを込めて一心に人形に向かい、人形に魂が宿った
と感じられたときの喜びは、自分自身、強く心が救われた気持ちです。やがて忍び来る老いへの不安をも忘れますね」。
最初に思い描いた通りにいかないことも多い。どうしようか、と考えることがまた楽しいという。
「着物の柄などは、気に入ったものが見つからない時には自分で描きます。そのうち織物も自分でするようになったりするのかもしれません」。
國門さんの人形制作は、自宅の一室。展示会に向けて最後の仕上げが行われていた。御所人形、彦根屏風に登場する人物や、戦国の女と題する浅井三姉妹の姿が、國門さんが過去に創り手元に残った人形たちと共にあった。
人形の可能性……。全てを予め失っている人形が人に示す可能性と、作家が何を人形に込めどこまでイメージに迫れることができるのか、二つの可能性があるように思う。「國門登美恵ワールド」、二つの世界を見せてくれるのではないだろうか。
第1回まちなか博物館特別展
國門登美恵ワールド
日時: 2010年9月25日(土)〜10月24日(日)
場所: 夢京橋あかり館
入場料: 200円
夢京橋あかり館
滋賀県彦根市本町2-1-3
TEL: 0749-27-5501
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【小太郎】