カミロボ再び!
400体の作品が集結
懐かしい人からメールが届いた。「8月に故郷の滋賀で初めての作品展をすることになったので、お知らせのメールをさせていただきました。場所は愛荘町の愛知川びんてまりの館です」。「カミロボ」の安居智博さんだった。子どもの頃から紙と針金による紙工作「カミロボ」を作り続け、その数は600体以上。現在は作品発表と共に、 フィギュア造形・商品企画など多方面で活動する彦根市出身のクリエイターである。
2008年、取材記事を書いた。当時の記事を振り返りながら、「カミロボ」について語りたい。
「空想のヒーローを手っ取り早く実体化し遊ぶ最善の方法がカミロボです。ガンプラで遊ぶとすぐに壊れてしまうので、紙でロボットを作り、戦わせて遊んだのが始まり」と安居さんは話す。プロレスがゴールデンタイムに放送されていた頃を強烈に記憶するファーストガンダム世代である。空想し、考え、カミロボを作り戦わせる。
安居さんは小学2年生のとき、初めて紙と針金でカミロボを作った。3年のときには関節部分に可変機能を有したカミロボを、自らの発想で生みだした。カミロボプロレスの始まりとされる伝説の一戦は1982年、小学校5年のときである。
紙ロボを、両手で操り、戦わせる。ワザをかけ、投げ飛ばす。例えば、15分1本勝負のストーリーを空想し、自分で演じる。本気でぶち当て、投げ飛ばす。壊れたら、修理する。
カミロボにはそれぞれに名前と経歴、カミロボ界でのストーリーがある。それぞれに生きた、或いは生きるための背景を持ち、リングでの戦歴と共に、日常の暮らしぶりが積み重なる。
カミロボは戦いと修理を重ねることで進化し、カミロボプロレスの世界は深化しながらフロンティアを拡げていくのである。
インターネットが発達し、僕らは「カミロボプロレス」を共有することが可能になった。ホームページを訪れると、驚くべき世界がある。ひと昔前ならば永遠の独り遊びでしかないものが、世界に向けて発信されている。どこまでも独り遊びの延長であるところが、僕らの憬れとなる。
ザ・タガー
身長 149.00mm
デビュー 2002.1.3
得意技 タガーカッター
ストリートレスラー軍団の元リーダー。おしゃれな奴ばかりあつまった集団の中で、実は田舎出身のためコンプレックスを持っていた過去を持つ。ストリート軍団がマックスリーグに合流した際もリーダーとして全体をまとめるも、リング上での自己主張が下手でイマイチな自分に悩み、ついにはメジャー団体からの脱退を決意。 (Webサイトより)
僕が「カミロボプロレス」を知ったのは多賀名物「糸切餅」を検索していたときだった。「身長15センチの個性的なレスラー」、「ちゃぶ台の上の新たなマット界」、「プロレス愛と想像のリアルファイト」、そんな文字列が飛び込んできた。そして「ザ・タガー」というカミロボを見つけた。
「ストリート軍団元リーダー、ザ・タガーです。というか『糸切餅』の話です。糸切餅というのは僕の故郷、滋賀の『多賀大社』という神社の前で売っているお餅のことです。子供の頃から初詣といえば糸切餅、でした。」という安居さんのコラムがあった。
「ザ・タガー」は、ピンクとブルーのストライプのマスクとコスチュームを纏っている。「2002年1月3日デビュー。多賀町出身のカミロボなのである。得意技タガーカッター。ハードコア空中殺法というスタイルを確立し人気者に。さらに上を目指して頑張っている」というプロフィールを持つ。得意技タガーカッターは、糸で切る糸切り餅をイメージしたもので、コーナーポストに立ってシューティングスタープレスの要領でジャンプ、そのままギロチンドロップという技である。
「いろんな団体に参戦し、いろんなレスラーと戦って、ようやく自分の目指す所が見えてきました。これからは迷わずに進もうと思う。」とザ・タガーはコメントを残している。
今も現役で活躍しているのだろうか……。8月、愛知川びんてまりの館にやってくるのだろうか。安居さんに聞いてみた。
「脳内世界では現役で戦っています。今回の滋賀での展示では選手団団長として全体をまとめていると思います」。
遂に僕はザ・タガーとリアルで会うことができる。
2014年に行われたカミロボプロレス30周年展は最終回といっていい大きな区切りだったという。以降、安居さんはカミロボを両手に持って遊ぶことをほとんどしなくなった。「ひとり遊び」と「表現活動」の間で逡巡してきた気持ちの決着は、タガーが語った「ようやく自分の目指す所が見えてきた」ということなのかもしれない。
安居さん曰く、
「カミロボが自分にとって大事な表現活動であると認識し始めた頃から『カミロボ』をどこまで拡大解釈できるか、ということを続けてきました。その過程で、『カミロボ』を形成する最重要要素は『紙』という素材ではなく、カミロボ独自の関節可動の仕組みの『ヤスイ締め』なんじゃないだろうか、と思うようになりました。それ以降、日用品や駄玩具などの紙以外の素材に対してもヤスイ締めを使って造形するようになりました」。
愛知川びんてまりの館で開催される今回の展示会のタイトルが「紙のロボット『カミロボ』と日用品で作る人形たち」であることに納得した。日用品で作る人形たちはカミロボの後継者なのである。
「ヤスイ締め」は、安居さんがカミロボ制作の中で開発した、関節を動かしジョイントさせる針金の独特な締め方で、接着できない素材の接合にも使える(カミロボのWebサイトで公開されている)。
「紙」を使ったカミロボは「素材」の境界を超え、ヤスイ締めを使った新たな「構造」という領域へ足を踏み入れたのである。カミロボプロレスの世界は安居さんの脳内で今も続いている。この夏は僕にとって最も重大なものになるかもしれない予感がある。
ちなみに、安居さんは、2006年ニューズウィーク日本版の「世界が尊敬する日本人100」に選出されている。
安居智博作品展
紙のロボット「カミロボ」と日用品で作る人形たち
会期 2021年8月4日(水)~8月29日(日)10:00~18:00 / 月曜・火曜休館
作家在廊日 8月22日 カミロボ制作実演日 開館終日
安居智博さんトークショー
「これまでの創作活動・仕事で携わった造形について」
日時 2021年8月8日(日)13:30~
定員 15名(参加費無料・要申込み)
会場 びんてまりの館 創作交流室(和室)
申込み 電話にて受付中(10:00〜)
愛知川図書館・愛知川びんてまりの館
滋賀県愛知郡愛荘町市1673
TEL: 0749-42-4114
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【小太郎】