山内さんの 愛おしいもの・コト・昔語り「あいあけ披露目」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2021年1月27日更新

婚礼の日


 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(93)和子さん(93)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は「あいあけ披露目」。
 「葬式の話をしたさかい、婚礼の話もしておこか」と、喜平さんらしく順序正しく、注釈も入れながら結婚の際の一連の流れを教えてくださった。 最初に登場するのが〝はしかけ〟で男女の仲を取り持ってお見合いなどをセッティング、両家の意向を確認しながら話を進める役割で、一般的には仲人のようだが仲人ではなく、年頃の男女を持つ親戚の人が世話を焼くのが多かったそうだ。そうして話が進むと、〝決め酒〟が行われる。はしかけは酒を持って女性の家を訪れ、「○○家では、お嬢さんの○○さんを嫁に迎えたいとおしゃっておられます」と告げ、「不束者ですがよろしくお願いします」と返事を受けて、持参した酒を酌み交わし、結納や婚礼の日、結納の額などを決めた。
 次は〝結納〟で、新郎の家から新婦の家に持参され、文房具店では結納用品一式が揃い、目録などを書くサービスもあった。和子さんは「結納一式は箱に入っていて、それを包むのに家紋入りの一反風呂敷と小ぶりの風呂敷が要りましたんや」。新婦の家では受領書を書き、新郎の家へ届けられた。「必ずではないですが、〝衣装見せ〟というのもありました」。それは新婦の家で、親戚や友人の女性が集まり、結婚に向けて準備された着物や箪笥などの調度品をお披露目するイベントなのだそう。
 嫁ぐ日、新婦の家では親戚などが集まり〝たちぎょう〟を行い、仲人の男性が迎えに来て、嫁ぎ先へ向かう。「古橋では、仲人は親戚のおじさん夫妻と決まっていました」と喜平さん。和子さんは「大型のタクシーで古橋へ向かい、集落の入り口で車を降りて家まで歩きますのや。そのとき、親戚の人たちが迎えに出てくれてますのや」。家に着くと一番に仏壇を拝み、堅めの盃を交わすが、盃に酒を注ぐのは姉婿。「盃事も終わりました。これが喜平の嫁の和子です。披露申し上げる、と仲人が告げると儀式は終わりです」と喜平さんは口上も覚えておられた。
 喜平さんによると、ちょうどお二人が結婚された昭和32年ごろ、派手になる結婚式を縮小しようと生活改善規約が改正され、それまで家で行われていた披露宴が禁止になったそうだ。喜平さんたちは翌日、両家の濃い親戚に集まってもらい〝あいあけ披露目〟を料理店で行った。規約はだんだん緩くなり、その後は結婚式場を利用する人が増え、
  あいあけ披露目〟を行ったカップルは多くはない。
 「ほの日は婚礼衣装ではなく、一番上等の色着物を着ました。その前に、義母さんと二人で〝親類歩き〟と呼ぶあいさつ回りをしました。ほして、結婚後、〝かまど見せ〟というて親戚の家にお呼ばれにも行きました」と和子さん。
 「現代では家のお仏壇を拝むこともされんようになったし、家に嫁ぐと考える人はおられんようになったと思います」。最近は結納や仲人も聞かなくなった。
 「見染められたのはどちらが先だったのですか」と少々下世話な質問をすると「そっちや」と喜平さんは答えられたが本当かしら。和子さんは結婚後も仕事を続けられ、いわゆる職業婦人だったが、当時の古橋では珍しいことだった。ご苦労が多かったのは和子さんの方だと思ってきたが、いつも和子さんを気遣う喜平さんと一生懸命に仕える和子さんを〝仲睦まじい〟と思うことは何度もあった。今回、書ききれないほどのお話を聞き、愛情は育むものだとの思いが一層強くなった。

 山内さんのお話は今回が最終回です。長い間、ありがとうございました。ご心配のないように申し添えますと、お二人はお元気です。また機会があれば。

編集部

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