お朔日(ついたち)参りの効能

多賀大社

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 多賀町 2009年8月9日更新

多賀大社の本殿。「お朔日まいりの方々へ」の看板が立てられていた。

 7月1日、天皇陛下の渡航安全祈願が多賀大社で行われると聞いて、朝早く出かけた。参拝の人が多いので不思議に思っていたら「お朔日参りに来られたのですか」と尋ねられた。
「朔日」は、太陰暦の月の第1日をいう。多賀大社では、太陽暦となった今も、毎月1日に「お朔日参り」が行われている。近くに暮らしていても、知らないでいることは多い……。もっと早くに知っていれば、生き方そのものが変わったかもしれないと思った。

 8月1日午前7時前、お朔日参りに再び出かけた。万灯祭の準備が境内で行われている。拝殿の前に佇み、ぼけらー、っと考えていた。何を考えていたかは思い出せないが、漠然と神様とかそういうことだ。
 午前7時からお祭り(特別祈願祭)が斎行され、ご祈祷を望む者は住所と氏名を書いて自由に昇殿することができる。
 毎月の始まりを意識すること、季節感を取り戻すこと……。かつて暮らしのなかにあって失われたものが再び目覚めるような感覚。昇殿した人全ての住所と名前が神様に伝えられ、僕の横で「ありがとうございます」と声にして手を合わせる人がいた。

積み上げられたお朔日参りの御幣

 帰り道、何人かの知り合いに出会った。「お朔日参りに来られたのですか」と尋ねられた。そう尋ねるようになっているらしい。友人にも出会った。「おみくじを引いたか?」とかなり強く言われた。
「大吉とか、小吉とか、そういうのも大切やけど、そこに書いてあることが大事なんや。僕は、毎月おみくじを引いて一ヶ月ずっと、持ち歩いて、時々、読み返しているんや……」
手帳から、丁寧に折りたたまれた7月に引いたおみくじを取り出して見せてくれた。
 僕は導かれ、言われる通り引いた。第六番。意外にも「大吉」だった。『……日々是好日。意(こころ)のままに望事叶う。しかし驕(おごり)の心兆せば身を持ち崩して災を招く。心は正直に行は正しく身を律すべし。争事にあたっては意地を通せば解決遠し。一刻も早く手を引き自らをつつしみ戒め義理人情を守れば神の恵あり。』
 おみくじに書いてあることは、思い当たることと思い当たらないことがあった。思い当たらないことはこれから思い当たるのだろうと思った。
「いきなり大吉やったか…。直江兼続にならんとあかんなー」と友人は言った。『直江兼続になれば神の恵あり』と言葉を置き換えてみる。しっくりこなかったが、僕は、毎月配られる御幣をいただき、とても気分よく再び帰り道を急いだ。

7月の御幣の白と緑は卯の花を模している。

 御幣は朔日に限り授与されるもので、季節の花の色を模している。7月は卯の花で、白と緑。8月は撫子、紫と赤だ。9月は桔梗の紫と緑。12の御幣を手に入れたいと思った。おみくじは、丁寧に折りたたんで手帳にはさんだ。

「お朔日参りですか……」
すれ違った人に、今度は僕が声をかけていた。どうやらそういうものらしい。
 いずれ、何年かして、あるいは何十年かして、手を合わせ「ありがとうございます」と心から言える日が来るのかもしれない。

小太郎

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