山内さんの 愛おしいもの・コト・昔語り 「日野菜」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2020年9月3日更新

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(93)和子さん(92)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は、「日野菜」。
 日野菜は県内日野町が原産地であることからその名がつけられた。細長い形状をしているが蕪の仲間で、上部が赤紫色、下部は白色で、糠漬けや甘酢漬けなどの漬物にして食べる。喜平さんちも漬物にされていて「子どもじぶんからあった」と言われる。
 「日野菜の葉は何枚あるか知ってるか。大根はわからんけど、日野菜は7枚と決まってるんや、これは譲れんわ」と喜平さんが話し始めた。日野菜は生葉は常に7枚、外の葉が1枚枯れると芯の方から1枚が生葉になるのだそうだ。
 喜平さんは「日野菜の栽培と漬け方」と題したA4版・3枚の自作の資料を準備してくれた。特徴から始まり漬け方まで事細かに書いてあり、この通りにすれば良いのだなと思うが、話を聞いているとまだまだ気を配るところは多い。
 例えば、育てる際に大切なのがまず間引き。双葉が開いたころに1回目を行い、本葉が2~3枚時に2回目、本葉が4~5枚時に3回目を行うと良いと言われる。
 「大根も同じやけど、日野菜も1回目の間引きは特別に大きいやつを抜くんやで。大根も日野菜も交雑しやすく、双葉で特別に大きいやつは何かが混じった雑種性が強い〝雑種強勢〟で、良いものには育たない」と言われる。私なら大きなものを残しただろう。
 「ほしてな、日野菜は双葉の下の胚軸が良い色、赤紫色をしているのを残すんやで」。その後は葉数が多いもの、葉柄の色が薄いもの、草丈が高いものを間引くと良いそうだ。
 間引き後には必ず条間に肥料をやる。肥料を根元にやると主根を痛めてしまい、養分を吸収する側根がある場所でなければいけないからだ。
「日野菜の側根は60cmくらいになるんや」。
 大根も日野菜もただただ主根が太くなっているものだとばかり思っていた。間引きもしかりで「知らないことだらけです」と言うと、傍で聞いておられた和子さんが「ほんなこと知らんかて種を播いたら大根も日野菜も育つがな。いくつになっても知らんことは仰山ある。知らんことを知るのは楽しいがな」と慰めてくださる。
 喜平さんは「野沢菜も日野菜も同じで、できるだけ大きく、同じ大きさに作らなあかん。日野菜は直径2・5㎝くらいはあるかな」と指を丸めて円を作られた。
 日野菜の収穫は播種後45日~50日頃。50日を超えるとスジができて味が落ちるそう。収穫したらその場に置いて少ししおれさせてから家に持ち帰り水洗。水洗い後も水を切りながら1時間ほど置いてから4本ずつ葉の中ほどを縛って日当たりの良い軒先などに干す。
 喜平さんは「しおれさせてから作業をすると葉が折れん」と言い、大切なポイントだと言われた。
 残す葉は5〜6枚。干す際には根身の先、直径が1cmくらいのところで切るとうまく乾燥できる。晴天が続けば干すのは2〜3日くらいで。根がU字型に曲がるようになればOK。長く干しすぎると味が悪くなるそうだ。
 高齢になられ、現在は漬物を漬けることはしておられないが、聞けば丁寧に教えてくださる。種を播けば育つとはいえ、良いものを作るためには大変な努力と観察力が必要で、並大抵ではないことがわかる。「ずぼらはあかん」と言われると耳が痛いが、日野菜を育て、漬物を漬けるのもいいかなと思う。

 日野菜も大根も8月下旬から9月初めが播種時期だ。
 原産地の日野町には「深山口日野菜原種組合」があり、日野町産の日野菜はほぼ、この原種組合の種を使っていると聞いたことがある。原種組合では、収穫期になると育てた日野菜を抜いて色形の良いものを吟味し、それを埋め戻し、春に種を取ることを繰り返しておられる。喜平さんが伊吹大根の種を取られたと同じ事をして日野町産の日野菜の種を守っておられるのだ。早速、この原種組合の種を買い求めた。さて、ずぼらな私にできるだろうか。

 

光流

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