山内さんの 愛おしいもの・コト・昔語り「野沢菜の漬物」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2020年8月19日更新

野沢菜の塩漬け専用の漬物桶。木製の蓋は喜平さんの自作で、いつでも使えるようにきれいに保管されている。

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(93)和子さん(92)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は、「野沢菜の漬物」。
 野沢菜の漬物は長野県の名産品として知られている。古橋にちなむものではないが、かつてお二人で作られていた時期があり、そのお話がとてもお二人らしいので書いておきたい。
 喜平さんが農業改良普及員をしていた昭和50年代、野沢菜漬けの漬け方を長野県に問い合わせた同僚職員から「教えてもらえなかった」と聞いておられた。その後、いつかは不明だが、テレビ番組で信州の漬物を特集した番組を見ていた喜平さんは、野沢菜漬けのコーナーで「ここからは映さないで」と画面が切り替わる一瞬に、漬物桶に積みあがった野沢菜が映ったのを見逃さなかった。喜平さんは、「野沢菜は塩漬けしてから本漬けをするんやな」と思い当たったそうだ。57歳で退職後、野沢菜を栽培し、野沢菜漬けを作ることに。現在なら、パソコンで「野沢菜の漬け方」と検索すればそれなりにレシピを知ることができるが、当時は〝極秘〟だったようだ。
 喜平さんが試行錯誤した浅漬けの作り方を簡単に紹介すると……。作りやすい分量として、準備する野沢菜は約5㎏。きれいに水洗い後、水分を十分に切り、桶に一株ずつ葉を折らないように並べ、一段ごとに塩を振り、株元と葉が交互になるように漬ける。すべて並べ終えたら押し蓋をして重石(約1㎏)を乗せて、水を張る。使用する塩は総量で約1・5㎏。2日ほど漬けた後、本漬け。野沢菜を水洗いして水を絞り、準備した漬け汁に浸し、4日後から2週間ほどが食べごろ。漬け汁は醤油(600㏄)、みりん(600㏄)、酢(300㏄)を一度沸騰させて冷ましたものだ。
 法事など人が集まる席に持参され「あの時の野沢菜の味は忘れられない」と今でも懐かしがる人も多い。和子さんは「食べさせてあげたかったー」と言ってくださる。
 喜平さんらしさを感じたのは、「野沢菜は芯葉2枚、半展開葉1枚、展開葉1枚を使うんや。大きくなるほど固くなるので本葉が10枚頃になったころが収穫期なんや」と言われたことが一つ。栽培した野沢菜は中心の2割ほどが漬物用で8割ほどは畑に残される。もったいなくて真似できそうもないが、そうでなければおいしい漬物にはならない。葉を折っては値打ちがないと、漬物桶は専用の四角いものを準備されていたのもらしさだ。
 塩漬けまでが喜平さんの担当で、本漬けは和子さんと決まっていた。喜平さんが一所懸命に育て漬けられた野沢菜だからと、和子さんも一生懸命になる。本漬け用の小さめの容器に塩漬けして水洗いされた野沢菜を1株ずつ並べる。1段目が終わり2段目は株元と葉先が逆になるように並べる。「きちーんと並べると、株元の方は白、葉先は緑でほらきれいやったで」と和子さん。お二人はともに几帳面な方なのだが、和子さんには喜平さんに褒めてもらえるほどに几帳面さを発揮せねばならない場面だったと思われる。喜平さんは褒めたりはしないと思われるが、漬け終わればきっと満足そうな顔をされ、和子さんはほっとされたのではないだろうか。私の勝手な想像だが、野沢菜漬けのお話を聞いてお二人のご夫婦としてのあり様が理解できたような気になった。尊敬と思いやり、他にもたくさんあるが書き尽くせるものではない。

光流

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