山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り「ゼンマイ」と「川原ゼンマイ」
ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(92)和子さん(92)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。今回は、「ゼンマイ」と「川原ゼンマイ」。
「コゴミはどうして食べる?」。山菜の話をしていて喜平さんに問われた。「茹でてマヨネーズをかけて食べます。そのままてんぷらにもします」と答えた。「炊いては食べへんか?」、「炊いて食べたことはないですね……」。
山菜の代表といえば、ワラビとゼンマイ。コゴミを知ったのは割と最近で、手軽に食べられるのが気に入っている。ワラビはあく抜きをしなければならないし、ゼンマイは乾燥させてからでなければ食べられないと知ってはいたが、料理をしたことはほとんどない。ゼンマイはスーパーで〝水煮〟も売られていて、「わざわざ山へ行かずとも簡単に入手できる」と、山へ行くこともなくなり、もっぱらコゴミ狙いの春を過ごしている。
喜平さんと和子さんのおもてなし料理の一つに〝ゼンマイご飯〟がある。喜平さんに作り方を教わった人が、自分で作ってみるとおいしくなかったと言われたそうだが、喜平さんは「ゼンマイが違うんや」とゼンマイの処理の仕方を教えてくれた。
採ってきたゼンマイは綿などを取り除き、たっぷりの湯で茹でたら熱いうちに木灰をまぶし、ビニールをかぶせて30分ほど蒸らす。灰がついたままのゼンマイを揉んでそのまま乾燥させる。喜平さんは「他の人がどうしてやはるかは知らんけど、揉む人はいやはれんかもしれんな」。灰をまぶして揉むと、ゼンマイの表面の組織が壊れ、芯まで乾燥させることができ、料理の際には味が良く浸み込むのだという。食べる際には水に浸して〝戻す〟が、その時に灰は落ちるとも。
「コゴミも同じようにするんや。ほんでもコゴミは味が薄い、ゼンマイの方が旨いな」と言われ、コゴミも乾燥させて保存できると知った。「古橋ではコゴミは川原ゼンマイと言うんや」。和子さんが奥から「私の宝箱を見せたげる」と段ボール箱を持ってきて、乾燥したゼンマイと川原ゼンマイを見せてくださった。よく似ているが、やや短くて細めなのが川原ゼンマイ。採取した年や採取地を書いた袋にきちんと詰められていて、「こうしておけば10年でも大丈夫」と。
和子さんは「ここまでするのに手間がかかります」と愛おしそう。
喜平さんは、ゼンマイを200gほどずつ茹でる。茹でる時間は2分半。茹で上げたらすぐに灰をまぶすのだが、茹でる役は和子さん、すぐに灰をまぶし、ビニールを被せるのは喜平さんと役割分担をして作業に臨まれる。遠くまで採取に行ったこともあると言われ、その日のうちにと茹でておられたに違いなく、ほっとする間もなかっただろう。山の中を歩き回るだけでも大変なのに……「お父さんについていくのは、えろおした」と言われるのは、採取から乾燥まですべての時間を指しておられ、出来上がったものは〝宝物〟に違いない。同じように料理しても、同じ味にならないのは「手間暇かけた下処理」の差で、和子さんが「ご馳走は一生懸命に食材を集め歩いて手間暇かけて作るもの」と言われる所以だ。
喜平さんの家ではゼンマイと川原ゼンマイの両方を食べておられるが、川原ゼンマイの料理を作った日、「ほんまもんのゼンマイにして」と息子さんに言われたことがあるそうだ。どちらも贅沢な味と思うが、食べ比べができて、やっぱりゼンマイがおいしいと思えるなんて〝いいな〟と思う。
古橋ではコゴミの季節は例年4月初旬。ゼンマイはやや遅く、喜平さんは「ソメイヨシノが散り始めるころ」を目安にしている。「やってみたい」と言うと、「木灰はな、口に入ることもあるさかい、ちゃんとした薪を燃やした灰を使うんやで。紙やらビニールが入った灰はあかん」。喜平さんは薪ストーブから出た灰をもらっていると教えてくれた。そして、ゼンマイご飯は炊き込みご飯ではなく、煮たゼンマイを白米のごはんに混ぜたものだ。
【光流】