山内さんの愛おしいもの・コト・昔語り『疱瘡送り』

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2019年3月11日更新

喜平さんの母・小春さん

疱瘡送りに使う作り物

 ご縁があって、長浜市木之本町古橋にお住まいの山内喜平さん(91)和子さん(91)ご夫妻にお会いしてお話を聞き色々教わっている。ふと耳にする山内さんのお話が面白い。「愛おしいもの・コト・昔語り」は、私が聞いた中でもこれはと思った、或いは伝えておきたい山内さんの記憶である。今回は「疱瘡送り」。
 昔の事を話すのに古い写真を準備して下さった。喜平さんの母・小春さんが孫である喜平さんの息子さんを背負って、田んぼのあぜ道に立っている。「これは疱瘡送りの時の写真やな」と喜平さん。疱瘡(天然痘)は死に至ることもある伝染病の一種で、1876年に予防接種が義務化され、1976年に廃止、40歳代以上の人は予防接種を受けたことになる。和子さんは、「昔は生後6か月から1歳までの間に接種を受け、その後、小学6年生の時に2回目を受けることになっていたと思います」と話して下さる。
 お二人によると、発病に至らないように体内に抗体を作るための接種を受け、体内に抗体ができ大病に至らずに済んだことが確認できると「疱瘡送り」を行ったそうだ。写真の右下に疱瘡送りに使われる〝作り物〟が写っている。
 次にお訪ねすると、「できるかどうか、59年ぶりに作ってみた」と、藁でお盆のようなものを編み、赤色の御幣を立て、小豆が入ったおにぎりをのせて待っていて下さった。藁のお盆は「桟俵(さんだわら)」と呼ぶそうで、米俵の両端に蓋をするように使われ、昔の人なら誰でも作れたらしい。59年ぶりの作は、「藁が少なかったのでこんなですが、昔のはもう少し分厚かった」と言われる。おにぎりは小豆と米を炊いたもので「小豆飯(あずきめし)」と呼ぶ。和子さんは、「餅米を使う〝赤飯〟とは違うの。小豆のゆで汁と塩も少し入っています」。お味見用の小さなおにぎりも作って下さっていて、おいしく、体に良さそうな味がした。文具店で赤色の半紙を買い求め、練習してから切ったという御幣は、几帳面な喜平さんらしく、とってもきれいな出来栄えだ。
「これを野辺に置いてくるんですが、その時には『いんでください』と言いますのや」と喜平さん。作り物は、疱瘡の神様への捧げもので、「無事に治りました、神様のご加護のお蔭という意味合いでしょう」。疱瘡送りは古橋だけの風習ではないが、当時でも皆がしていたわけではなかったそうだ。
 「疱瘡送り」のほかに「はしか送り」もあり、はしかの際には御幣は白色、おにぎりは麦飯と決まっていたが、息子さんははしかにはかからず、はしか送りはしていないそうだ。
 和子さんは「このねんねこは出産祝いに伯母がくれたもので、私は働いていましたので、義母が喜んでくれました。これは言ってみれば正装なんですよ」と言われる。お二人は「ねんねこを着ていたら、野良仕事はできません。昔は〝亀の子〟という、もっと簡単なもんがありましたんや」。どうやら子どもをおんぶする際、おんぶ紐に座布団のようなものがついたものがあり、〝亀の子〟と呼んでいたようだ。一枚の写真、そこから甦るたくさんの記憶。楽しい時間を過ごした。

光流

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