半月舎だより 28

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2019年2月25日更新

まちの定点観測者

 親族があるわけでもなく、そういう意味では縁もゆかりもない彦根にどうして店を構えているのかと尋ねられることがある。高校卒業後、彦根にある大学に進学して、気に入ったのでそのままこのまちに住みついています。そう答えれば、大方納得してもらえる。そう答えながら思い浮かべているのは、まちの風景よりも、このまちに住んでいるひとたちのことだ。そんなふうに思い浮かぶひとのひとりが、Yuko Nexus6さんである。
 Yukoさんは、遠足家(!)、サウンドパフォーマー、DJなどとして活動するアーティストであり、じつは半月舎の顧問でもある。「これおもしろいよ〜」と、聞いたこともないようなひとのこと、イベントや本、音楽などについて教えてもらったり、遠方での出店に同行してもらったり、店番をお願いしたり、わたしが憧れていた虹釜太郎さんという方に引き合わせてくれたり、こたつを囲んで鍋をつついたりと、お世話になったこと、一緒に過ごした時間は数知れない。
 出会った時からYukoさんは、「わたしは鬱だから〜」とあっけらかんと宣言していて、そぼくな大学生だったわたしは衝撃を受けた。のちに、正確には双極性気分障害(躁うつ)であることを教えてもらったが、「鬱」のひとに会うことは初めてだったし、初対面の者にもあけすけでオープンな姿勢に、なにより驚いたのだと思う。
 Yukoさんは隠さない。見せていく。瞬間瞬間を残すように次々投稿されるYukoさんのSNSには膨大な日々の記録が更新されていくし、それは2013年の秋、Yukoさんに乳がんが発覚した後も変わらなかった。自身のツイッターで「tbk_yuko」というハッシュタグをつけて乳がん闘病記(tbk)を記録し続けたYukoさんは今月、「#tbk_yuko」という本を刊行した。ツイッターに綴った闘病の記録、左胸全摘出前と後の写真、書き下ろしのエッセイなどを収録した新しい乳がん闘病記、「ニュー(乳)がんフォトエッセイ」だ。乳がんという、女性性にとってセンシティブな問題をはらむ病のことも、Yukoさんは自分のこととしてオープンに、ここに至るまでの個人的遍歴、家族やパートナーとの関係も含め、見せていく。
 Yukoさんとは何者なのか、アーティストとはいえ何をつくりだしているひとなのか、それを簡単なことばで言い当てるのはむずかしい。でも、「#tbk_yuko」をひらけば、「Yukoさんはアーティストだ」ということがわかる。何者なのかという説明は不要で、作品だけで説得させられる。アートとかアーティストの定義をわたしは知らないけれど、Yukoさんはほんとうにかっこいい。それだけで十分だ。
 そんなYukoさんも、彦根を離れる日がせまっている。パートナーの転職にともない、転居が決まっているのである。彦根に住みついて今年でわたしも14年、何人かの知人がまちからいなくなった。でも、どうして彦根にいるのと問われるたびに思い浮かべるだろうし、そんなまちの定点観測者でいようとひそかに思う。

M

トークイベント「ニューガントーク Yuko Nexus6 #tbk_yuko 出版記念トーク」

日時 2019年3月15日(金)19:00(18:30受付)
会場 中野家具2号館(滋賀県彦根市中央町1)
料金 500円
予約 半月舎(担当:ミコシバ)0749-26-1201 / mikoshiba@hangetsusha.com

「#tbk_yuko」(ぶなのもり刊)は半月舎でも販売中です。

 

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

編集部

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