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半月舎だより 27

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2019年1月28日更新

冬眠するお店たち

 年が明けた。どうしてか今年は年末年始という感覚がいつもに増してうすく、ぼんやり過ごした。
 「一年の目標は100ほど書き出すとよい。誓いをひとつにしてしまうと果たせなかったときに痛手だが、100も挙げればいくつかは果たせる」という知人のことばに感銘を受けた。先日から、目標らしきことを思いつくたびに、ノートへ書き留めている。「ハーブを育てる」「店の窓拭きをする」などというささいなことから、「売り上げ倍増」と夢見がちなこと、「師匠に褒められる」「いつか飼う日のためにイシガメの飼育方法を調べる」と漠然としたものまで、こまごま書き出している。しかしまだ50にも満たない。1月中にはどうにか100書き出したいところだ。
 目標目標…と考えて思い浮かぶのは、やはり店のことが多い。「いい店を、長く続けるにはどうしたらいいのか」、「ところで、『いい店』とはどういうことなのか」。ふつうは店を始める前に考えるような命題に、開店8年目にしてようやくおぼろげながら思いを馳せるようになった。そんな月並みな問いかけを自分に投げかけられるようになったのは、昨年夏から初秋にかけての改装がきっかけだと思っている。改装を経て、はずかしながらはじめて、「わたしの店、いい店になってきたのでは」と思うようになった。もともと、Uさんというひととふたりではじめた店ということもあり、「わたしの店」という感覚もあまりなかったのだ。「いい店」にしたいと手を動かした日々の効用を、今にしてまた感じている。
 ところで近頃、近隣では「冬休み」がはやっている。ちょっとした休みではなく、ふたたび覚める日は来るのかとまわりを不安にさせる「冬眠」のような長い休みだ。
 近所のワイン屋のMさんは、昨年11月から店を閉めている。なんと湖北にある某酒蔵へ、日本酒づくりの期間労働に行っている。昨年11月からきたる3月末まで、じつに6ヶ月、つまり半年、お休みするという。いずれはワインのつくり手になりたいという夢があるらしく、発酵の勉強をしに行っているようである。毎月半月の晩に一緒に開いている「半月ワインバー」はいちおう続けてくれているし、日本酒づくりが終わったらまた店を開けるとは聞いているが、ほんとうだろうか。Mさんが見立ててくれるワインは毎回かならずおいしく、その味と安心感にすっかり慣れてしまったわたしなど、「日本酒づくり、楽しい」とにこにこしているMさんがちゃんとワイン屋を再開してくれるのか、不安でたまらない。Mさんにワインのおいしさを教えてもらったのに、Mさんの店なき今、どうやっておいしいワインにありついたらよいのかと、すでに困っているのである。
 今月半ばからは、半月舎の隣にある器と生活雑貨の店が冬休みに入った。「冬はお客さん少ないから」とあっさり、2月末までお休みである。休みまではほとんど常に企画展を開いていたし、めりはりをつけているのだろう。器の作家さんに会いに行ったり、旅に出て英気を養ったりと、長い休みにしかできないことをするつもりらしい。隣の店の不在はやはり寂しい。生活雑貨の店として頼みにしていたところもあったので、なんだか心もとない気持ちもある。
 話は変わるが、先日、知人宅でカメを見た。水槽で飼われているミシシッピニオイガメは、真冬なのにくるくると泳ぎ回っていてかわいかった。冬眠しないのかと尋ねると、水温をあたたかく保っているので冬眠しないとのことだった。冬眠から覚めない場合もあるのでこわいとも言っていた。
 彦根の冬は寒い。従業員を抱えているわけでもなく、年中あたたかく気温が保たれたショッピングモールのなかに店をもつわけでもない彼らが、じぶんの中の自然の摂理にしたがって、「冬眠」するのは当然のことのようにも思えた。春から、またよりよくあるために。
 さて、第二期改装計画を実施するため、半月舎も2月の後半は2週間ほどお休みをいただくことにした。しかしまだ、「冬眠」するほどの身分ではないとわきまえているので、100の目標をこつこつ果たしていくための、ほんの2週間の冬休みである。今年もどうぞ、よろしくお願いします…

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編集部

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