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半月舎だより 17

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2018年4月13日更新

冬の古本研修旅行 高松編

(高知編からつづく)
 二月なかば、「古本研修旅行」と称して同業者のNさんとともに極寒の湖北を脱出、一路四国に向かって三日目。短い旅は折り返し地点を迎え、わたしたちは香川県高松市へ向かった。
 高松に到着して最初に目指したのは、昨年夏にオープンした新刊書店「ルヌガンガ」だ。店主のこだわりを映しながらも、偏狭にならず、幅広い分野にわたって丁寧に選書された本が、ゆったりした店内の棚を埋め尽くしている。日々買い取った本を並べる古本屋としては、店主が棚に入れたい本を発注してつくる、こんな新刊書店をみると心底うらやましくもなる。そのうえ、この本屋の書棚には、わたしが読みたいと思っていた本、手に取ってみたかった本が、背表紙を揃えて並んでいたのだ。こんな棚を見ることが、本屋に入る無上のよろこびだ。「ルヌガンガ」の意味を尋ねると、スリランカの著名な建築家が「理想郷」として生涯をかけて作り上げた邸宅の名まえだという。ため息が出るようないい名まえだなあと思った。毎日のように通いたいこんな本屋が彦根にもあったらいいのに、と思いながら、自分も一応本屋の端くれであることを思い出し、背筋が伸びる思いがした。
 日も暮れかかり、次に向かったのは、古本屋「なタ書」である。今回の旅程が決まって最初にわたしがしたのは、「なタ書」に電話することだった。「なタ書」は、全国誌に載るような有名古本屋だが、完全予約制の古本屋なのである。おそるおそる電話をすると、店主のFさんは、どこかすっとんきょうなハイトーンボイスで、「場所がわからなかったら電話してくださいね」などと親切に対応してくれた。実際、商店街から一本裏に入った路地にある「なタ書」は旅人にはわかりづらく、ふたたびFさんに電話をかけて道案内をしてもらい、ようやくたどり着いた。薄暗いトタン張りの建物の木の扉を押して入り、靴を脱いで二階に上がると、不揃いな本棚や什器にびっしりと古本が並ぶ、屋根裏のような不思議な空間に出た。圧倒されるような異空間古本屋だが、Fさんは気難しいそぶりもなくひょうひょうとしていて、私たちが古本屋だと言うとさまざまな話をしてくれた。最近開店したという古本屋「yoms」にも連れて行ってくれた。さらに翌日は、Fさんの案内で高松を巡ることになり、最後にFさんが書庫にしている場所に連れて行ってもらった。「こういう本、引き取ってしまうと困りませんか?どうしてます?」と戦後の大学の講義用書籍がぎっしり詰まった箱などを見せてくれた。12年古本屋をしているFさんでも同じようなことに悩んでいるんだなあと思うと、古本屋に正解なんかないんだなと心づよくなった。
 今回おもしろかったのは、「古本研修旅行と称して、古本屋ふたりで本屋めぐりをしているんです」と言うと、「いいなあ、一緒に行きたいなあ」と言うひとが多かったことだ。昨年は大阪を経て倉敷・尾道・広島と研修旅行に出たが、そういえば山陽の古本屋では、同行したいとまでは言われなかったなと振り返る。四国に暮らす人は、旅心がつよいのだろうか。小さなバスを借り、各所で古本屋さんをピックアップしながら、古本屋を巡って行く旅を空想した。旅で出会った古本屋さんを思い浮かべながら、きっと愉快だろうなと思う。
 「いま四国で一番熱いのは、松山ですよ」とFさんは言い、愛媛県松山市にある「トマト書房」という店のカードをくれた。次の旅に続く地図の一片を、わたしは大事にしまった。来年の冬もまた、四国を目指すような気がしている。

M

編集部

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