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半月舎だより 14

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2017年12月4日更新

お客さんたちのあれこれ

 舎主のUさんも、舎員のわたしも30代の女なので、「お客さんも同世代くらいの女性が多いんでしょう」というようなことを言われることがあるが、そんなこともない。定期的にお越しになるような、お互い顔を覚えるようなお客さんは、ほとんど年配の男性だ。
 お客さんから本を買い取らせてもらい、自分で選んで並べ、という地味な作業を繰り返した結果なので、ひとまず、こういう商売なのかな、とも思っている。

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 「先生」と呼んでいるお客さんがいる。この方は、店が移転する前からのお客さんで、いつも段ボール箱にいっぱいの本をキャリーカートに載せて歩いてきて、「整理しないと妻に怒られるんですよ」と言いながら、本を置いていってくださる。お話を聞いていると、本の重さでご自宅の床が抜けかけたとかで、以来奥さんから定期的に本を処分するよう言われているのだそうだ。当然大変な読書家で、本についてもあれこれ教えてくださる。店が移転したときには、引っ越したことをしばらくご存知なかったようで、久しぶりにお越しくださったときは、「お店、なくなっちゃったのかと思いましたよ〜」と言われたように思う。

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 映画関係の本ばかり買っていくお客さんがいる。言い訳のように何度も述べているが、店の本はほとんどお客さんからの買取にたよっているので、ジャンルによっては、充実する時期もあれば、品薄になる時期もある。映画関係の本は、ここしばらくめぼしい買取がなく、あまり棚の本が動いていない。だからそのお客さんがドアを押して入ってくると、なんだか申し訳ない気持ちになる。それでも、月に一度くらいのペースでそのお客さんはあらわれ、「あ、こんな本もあったな」という本を目聡く見つけては、買ってゆかれる。こちらも、映画関係の本を入荷すると、やっぱりそのひとのことを考えながら棚に並べる。

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 来るたびに、歴史および郷土史の本を食い入るように見ていく常連の青年がいる。幼少時からの筋金入りの歴史好きであるそのひとは、高めの棚に置かれた郷土史の本を、少し見上げるような姿勢で、隅々まで見ていく。
 一年前の秋、中学生くらいの少年が、見たことのある佇まいで、彦根の郷土史コーナーを見上げていた。時を忘れて背表紙の文字とあそんでいるように見え、ときどき棚から本を取り出しては開いていた。尋ねると天橋立から来たそうで、彦根にはひとりでよく来ているという。聞くまでもないような気がしたが目的を訊ねると、「彦根城を見に」と言うので、常連の青年が中学生のころはきっとこんな感じだっただろうなあと思わずにいられなかった。
 予算200円で買える本はありますかと訊かれて返答に窮したけれど、ほしい本があったら学割しますよ、と言ってみたら、「学割はいりません」と毅然と答えられ、そういうきっぱりしたところもうちの常連と似ている、と思った。やがて彼は、「これいくらですか」と、一冊の本を帳場に持ってきた。値札には予算を越える金額が記されていたが、彼の予算で売ってしまった。
 さて歴史好きの青年は毎日のように店に寄ってくださっていたのだが、ある時期からぱたりと姿を見せなくなってしまった。うちの店の常連さんは、なにかに熱中し始めると姿を見せなくなる傾向があるので、最初は気にしていなかったが、ずいぶん長いこと会わないので、さすがにそろそろ、どうしているだろうと案じている。彼のことを考えながら並べた本が、何冊も棚で待っているのである。

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編集部

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