自動運転バス政所を走る!
「今日はあの細い道に入ろうとしてたわー」「昨日はここで立ち止まってたでー」と地域の皆に見守られながら、奥永源寺の集落内を自動運転バスがゆっくりゆっくり走りぬけた。
これは国土交通省が、中山間地域で人や物の流れを確保することを目的とした自動運転の実証実験を行う全国13箇所の中に、道の駅 奥永源寺渓流の里周辺が選出されたためだ。しかも走行するバスが最初から自動運転用に作られた車両ではなく、普通のバスを改造したパターンは全国で初とのことだ。
高性能GPSにより数十センチの誤差内で走行可能とのことだが、奥永源寺の場合は山間のためGPSが不安定な場所もあり事前に磁気センサーも道路に埋め込まれた。1ヶ月以上前から入念な走行練習が行われ、道の駅から政所町の集落内までの片道約2.3kmをバスがなんどもなんども行ったり来たりした。時にはじーっと考えたり戸惑うような仕草をみせるバスに、私なんかはヨチヨチ歩きをする小さな子どもをみるような心配と期待の入り混じった気持ちになり、地域の中では冒頭のような会話がそこかしこで聞かれた。
そしていよいよ11月11日から1週間、実証実験の本番スタート。相変わらずマイペースに道の真ん中をゆっくり走るバス。実際に乗ってみると車内はモニターがいっぱいでちょっと近未来だが、車窓には山村の風景…なんだか不思議な感じだ。そして運転手さんが手を数センチ浮かせているハンドルが、小刻みに揺れながら一生懸命進路をとっていたのが印象的だった。
奥永源寺地域は今、高齢化が深刻だ。最寄りの食料品店や病院まで車で20分ほどかかる上、コミュニティバスは1日数本のため自家用車は必需品だが、車に乗れないお年寄りもたくさんいる。移動販売や訪問診療もあるが、やはり移動手段の確保は切実だ。一方、若者も「できることなら運転をしたくない」「自家用車は不要」といった自動車離れが進んでいることもあり、近い将来自動運転車がどんどん生活に入り込んでくることを肌で感じた1週間だった。
自家用車が希少だった頃、この地域に初めて木炭で走るバスが通り地域の貴重な足となった。今、同じ道を自動運転バスが走るようになった様子をお年寄りたちは今どんな思いで見つめているのだろう……。
【れん】