半月舎だより 10

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2017年7月10日更新

一箱古本市の時間

 2011年から、一箱古本市「ひこねウモレボン市」を主催している。一箱古本市とは、もう読まない本など、自宅にウモレた本を持ち寄って開く本のフリーマーケット。一日だけの古本屋さんごっこが楽しいこの「一箱古本市」は、2005年に東京・谷根千で始まり、今では全国で行われている。「ひこねウモレボン市」は、(おそらく)滋賀県で初めての一箱古本市で、今年7回目を迎える。本を片手に一日のんびり過ごす楽しさは、主催の私たちはもちろん、参加のみなさんもとりこにしてしまい、出店の方からも来場の方からも楽しみにしていただいている、うれしいイベントなのだ。
 そんな楽しい一箱古本市なので、もっと広まればいい、といろんなところでいろんな人におすすめしていたら、昨年は水口と信楽の2箇所、今年も新たに木之本と野洲の2箇所で開催とお知らせがあり、お声かけいただいた。もちろん参加である。

木之本で

 木之本で今月11日に開かれた一箱古本市「いろはにほん箱」では、実行委員会にまで関わらせてもらうこととなり、今年早々から月一度、木之本の古本屋「あいたくて書房」で開かれていた会合にもときどき伺った。そのまま木之本に流れる時間のような、木之本界隈の世間話をまじえつつわいわいと進む会議は、知らない話題ばかりでなんだかものめずらしい。一箱古本市という簡潔な仕組みに、あれはどうか、これはどうかと次々アイデアが投げ込まれ、どんどん地のひとたちのものになっていく様子を傍で見ているのは、とても楽しいことだった。
 迎えた11日の一箱古本市「いろはにほん箱」は、直前までの雨の予報がうそのような晴天で、30店舗もの一箱古本屋が集まり、たくさんの方が訪れ、にぎやかな市となった。会場は、北国街道から入るこじんまりとした路地のような道。右手にずっと冨田酒造さんの蔵を見ながら行くと、地元の方がお世話する「大師堂」というお寺の境内につきあたる。この路地にずらっと古本屋さんが並んだら…と主催者で木之本虫プロジェクト代表の久保寺容子さんは当初から考えていたようで、その路地を一緒に下見した時から、私もこの古本市が俄然楽しみになってしまった。
 一箱古本市の楽しさは、本を通じて交流することはもちろん、「自分の持っている本を自分で値段をつけて売っている」という一箱古本市の状況そのものにもあると思う。ある出店者さんの箱に、澁澤龍彦や幻想文学などのめずらしい本が揃っていたのでまじまじ見ていたら、彼が「学生の時に集めていた本なんですけど…自分のはだかを見られているようで、なんか恥ずかしいですね…」とこぼしたのがおもしろかった。自分の本棚の一部を取り出してきて、そのうえ自分で値段を決めて売るのだから、そのひとの価値観がさらけ出されているようなもので、たしかに売る方はちょっと恥ずかしいかもしれない。けれども買う方としては人の本棚をのぞくような楽しさがあって、それもまた醍醐味なのだ。そんなふうに誰かの書架におさまっていた本が道にならんだのを見て、「本屋に売ってない本があるんだね」と感想をもらしたひともいると久保寺さんに聞いた。古本屋にいると忘れそうになる、素朴な驚きだ。

高宮で

 ところで木之本で出店した翌週末、今度は高宮で、またしても一箱古本市に私は出店していた。県立大学の学生が運営する中山道沿いの古民家喫茶店「おとくら」に併設のギャラリーで、同じく県立大学のTTP(Taga Town Project)というチームの学生が企画した一箱古本市だった。先生や先輩に譲ってもらった本を元手に、実は何年か前から多賀でほそぼそ一箱古本市を続けてきたのだそうだ。日がな、本棚を見たり、TTP代表の石見春香さんやお客さんとお話して過ごしていた。「なんだかいつにもましてゆったり時間が流れている気がします」ふと、石見さんが言った。
 たしかに、場所や形が変わっても、一箱古本市には独特の時間があると思う。

M

編集部

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